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芦沢さんとぼく 第14話 迫られる決断

 優さんが話した。私は目の前で起こった光景に私はただただ驚いていた。私が面談した時、優さんは何も話さなかった。私の前では心配で一杯だった母親は、少しホッとしたような表情を浮かべて、帰っていった。何が起こったのだろう?芦沢さんは何をしたのだろう?
 
 優さんとお母さんの姿が見えなくなり、面談室に私と芦沢さんの二人になった。

 「田中さん、お疲れ様でした」

 「お疲れ様でした。芦沢さん、芦沢さんは何をしたんですか?」

 「何って何ですか?」

 「私が前回、お話をした時には優さんは話してくれませんでした。お母さんも心配な気持ちを訴えていました。でも、今日優さんは話をし、お母さんはホッとしている。芦沢さんは何をしたんですか?」

 「田中さんは何をしたと思いますか?」

 「それが分かりません」

 「では、田中さんは前回、優さんとお母さんに何をしましたか?」

 「私は優さんとお母さんの話を聞きました」

 「どんな話をしましたか?」

 「不登校の話です」

 「不登校の話を田中さんは何でしたんですか?」
 
 「お母さんが気にしていたからです」
 
 「何を気にしていたのですか?」
 
 「学校に行けず、落ちこぼれになることを気にしていました」
 
 「落ちこぼれになると何が困りますか?」
 
 「何が?それは落ちこぼれたら、進路の選択肢が変わってきますから」
 
 「それは田中さんが思う困りごとですね。お母さんは何に困りますか?」
 
 「・・・」
 
 「私は分からないので、お母さんにそれを聞きました。そして、お母さんが私たちに解決策を求めているのは分かりますが、お母さんが思っている解決策についても敢えて聞きました。そうすると、お母さんは優さんが学校に行けないことを何となく理解しているところがあることが分かりました」

 「はい」

 「お母さんの心配は御主人などの周りから優さんが学校に行かないことで色々言われてしまうこと。であれば、それを私が引き受ける形にしようと思いました。お母さんが周りから言われなければ、優さんにお母さんが言うことは少なくなる。その状況を作ることは優さんにもマイナスにはならず、優さんと折り合うことができると思いました」

 「話をしながら、そこまで考えていたんですか?だから、芦沢さんは優さんたちの話を聞いて、大丈夫だと思ったんですね。」

 「大丈夫か否かは分かりません」

 「えっ、大丈夫ではないんですか?」

 「大丈夫か否かは分かりません。ただ、今のお母さんと優さんはお互いに一杯一杯。風船の空気が一杯で今にも割れてしまう状態のように感じました。だから、今、必要なことは空気を抜くこと。空気を抜くために必要な言葉が「大丈夫」という言葉だと私は思いました」
 
 「・・はい」
 
 「田中さん」
 
 「はい」
 
 「自分と向き合うことから逃げるのか否かは、私が決められるものではありません。ご自分で悩んで、どうするかは決めてください。自分と向き合うのであれば、優さんの面談を次回以降、田中さんがやって下さい。最初にお話をしたように私がお母さんのお話を聞きます。ただ、田中さんが自分と向き合うことができないということであれば、優さんの話を聞き、優さんと向き合うことは難しいと私は思います。なぜなら、結局優さんの話を聞くというのは、優さんの話を聞く自分と対話をしなければならないから。私が話を聞く以上、私を抜きにはできないと思います。私を介さず、情報提供だけするということであれば、今後は面談には参加せず、電話での受付だけやって頂いた方が良いのかもしれません。どうするかはぜひご自身で決めてください。」

 「はい」
 
 芦沢さんが部屋から出て、一人になった部屋で私は茫然としていた。否定した芦沢さんの対応で優さんが話し、お母さんがホッとした。自分が正しいと思ったのに。私はどうすれば良いのだろう?私は決断することができるのだろうか?
 
 
 

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