「ソーシャルワークのまなびかたー原因と結果のあいだの話―(仮)」3

 「困っているのは誰なのか?」、確認をしたら、やはり父が困っているとの話になった場合、次はどうするのか?勿論、父から話を聞くことになります。では、何を聞くのか?

 皆さんだったら、何を聞きますか?私は他の相談機関の職員と共に話を聞く機会があります。その際に職員がどんなことを聞くのかを隣で聞いていると、多くの職員が問題から聞いていることに気づきます。前記の例で言えば、息子の発達障害が疑われ、その対応が上手くできず、家事ができないのは母のアルコール依存症に原因があり、その対応に父が困っているとの前提のもと、問題の内容について聞こうとします。例えば、母はどのくらいお酒を飲むのか?お酒を飲んだら、どうなるのか?など。勿論、私も同じことを聞きます。でも、初めから聞くことはありません。では、何を聞くのか?

 困っているのは父なのかもしれません。でも、父が困っているのは何なのか?それをまずは明確にする必要があります。周りが思っているように、母がお酒を飲み、家事ができないことなのか?それとも、お酒は飲んでも良いが、家事はしてほしいということなのか?それとも、周りから息子や母のことを言われ、仕方なく相談に来ていることなのか?何に困っているのかを最初に父に確認します。

 その上で周りが話すように、母がお酒を飲み、息子の対応や家事ができないことに困っているとの話になった場合、その話をしていくことになります。ただ、注意しなければならないのは、そういう話になった場合でも、問題の話はまだしません。問題の話の前にもう一つ、確認しないといけないことがあります。それは何か?それは、なぜ今の相談なのか?ということ。

 周りの話すように、息子に発達障害の疑いがあるのであれば、10歳になったから、何かのキッカケで発達障害となり、忘れ物が多くなった訳ではないと思います。前から忘れ物があり、注意を受けることもあったのではないでしょうか?以前も忘れ物があり、注意を受けていたのであれば、なぜこれまでは問題にならず、今回は問題になったのか?

 そして、お酒の問題についても同様で、お酒をここ最近、多く飲むようになったのか?家事は以前はやることができたのか?以前からお酒を飲み、家事もしていなかったのであれば、なぜこれまでは問題にならず、今回は問題になったのか?問題の話の前に、これまで問題にならなかった理由を確認していきます。他の相談機関の職員と一緒に話を聞く時に、この内容を確認せず、話を進めていく人が多いことを感じます。

 何か困ることが起こる。その際に多くの人はそれにどうにか対応しようと自分たちで頑張ろうとします。それが難しければ、親戚、友人などの協力を借りる、またはそれでも難しければ諦めて、置かれた状況を受け入れます。外部の機関に相談をするというのは私たちが思っている以上にハードルが高く、何か背中を押すキッカケがなければそのような行動を取らない、取れないように感じます。そのため、相談に至るまでには困っている人が問題と向き合ってきた歴史と、もう無理だと思い、相談という行動を取ることになったキッカケを聞く必要があります。

 なぜ、今の相談なのか?これまでは問題にならなかったのに、なぜ今なのか?の確認ができた段階で、問題の中身を聞いていきます。問題の中身を聞く際に気をつけなければならないのは、問題は問題だと思っている人がいて、初めて問題になるということです。父の話を聞けば、問題が確認できる。そう思う人もいるのかもしれません。でも、父の話だけでは問題は分かりません。分かるのは、父が問題だと思っている内容だけ。父の目から見て、問題だと感じていることが分かるだけで、それが事実なのか、本当に問題なのかも分かりません。

 父との話ですることは、父から見て、困っている内容を聞くことであり、その場で解決策を提示することはありません。ただ、他の機関の職員と一緒に話を聞くと、母のお酒の問題を聞き続け、その問題があるから今の状況になっているとのストーリーにしてしまう場面を目にします。その上で、お酒が原因であり、それを断つ必要がある、その為には受診が必要であり、受診させるためにはといった話を進める。または、父が家族として母との会話の仕方を学ぶ必要がある、家族会や断酒会に参加してといった話をしているのを見ると、私たちは事実とは異なるストーリーを作り、それに沿って進めてしまう危険性があることを感じます。大量飲酒が見られるのであれば、断酒した方が良い。母との会話で悩んでいるのであれば、同じような状況で苦しむ家族がどのように対応しているのかを知る方が良い。どちらも間違っている訳ではないように感じます。でも、それが今回の事例の父に必要なのかは分かりません。

 私はこのような相談を受けた場合、大事にしていることがあります。大事なことは、困っている人が困っている相手に、困っていると言うこと。先の例で言えば、父が母に母のお酒の問題で困っていると母に言うこと。その上で、父と母が同じテーブルに座り、今後について相談していく機会をどのように作っていくのかを父と相談していくことになります。これまでも父と母がこのことで話をしてきたのであれば、どのような話し合いだったのか?父が望むことはどのようなことか?それに対して、母はどんな反応を示すか?父が母の望むことをどこまで受け入れるのかなどを聞き、話し合いをしたいといつ母に言うのか?場所は?父と母だけで話をするのか?などを確認していきます。

 受診や家族会、断酒会の話はまだ先。その話になった時にしかしません。なぜなら、問題はアルコール依存症の前に、問題だと感じている父が、その相手である母に話ができない、話をしても上手くいかないことであり、そこを通過しなければアルコール依存症の話はできないと私は思います

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