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『愛の美学』 Season2 エピソード 0序  「愛の奥行」(3813文字)

 昨年(令和2年)12月からおよそ半年近く、『愛の美学』の連載を休止していた。楽しみにされていた方には予告もなく連載休止になったことをお詫びする次第だ。

実は、言い訳をするようだが、今後の展開に必要不可欠とおもわれる、ある哲学的体系を参照することになり、この休止期間に僕の中でそれとの整合性を検証していた。つまりこの休止期間は思慮検証期間であった。

この哲学的体系については、時期を見てまた解説していくことにしよう。

結果的に、僕の中での基本的体系に大きな変化は生じなかったが、より、幅広い視点から『愛』を見つめ直すことができたと感じている。

そこで、『愛の美学』も、今後は新たに 「Season 2」 として始動していくこととした。今回はその序(エピソード0)としてお話する。

視線の先に見える「愛のカタチ」とは

今までの解説に、更なる進化を付随させた「Season 2」の初回。これから「こころの立体モデル©」を駆使して愛の世界を捉え直していく。

本日は、『愛の奥行』についてである。

さて、覚えておられるだろうか、『愛』という漢字について最初に触れた内容を。ここにきてもう一度それを思い出していただこう。

それは、螺旋階段のように上から見ると同じ場所だが、明らかに視点は深みを増している。この深度を増した風景から、改めて『愛』を見つめ直してみたい。

① 持続という印象

さて、いきなり、「持続」という言葉を持ち出したのは理由がある。『愛』という文字に託された意味と照らしてみたい。

いつまでも眺めていたい
(後ろ髪を引かれる思い)

これは、エピソード1で初めに触れた『愛』の感情だ。

いつまでも眺めていたい、この感情の表現は「ず~と」とすると分かりやすいだろう。もう少し堅い言葉で表現すれば、いつまでも観察していたいという心情だ。

ベルクソンは、純粋持続という言葉を使う。「今-ここ-私」それは、私をして持続すると願うことと、所与としての物理的な時間(絶対時間ではなく、垂直に切り立っている物理時間)に連続性をもった感覚、『愛には奥行がある』この場合の奥行とは、持続の概念にもつながる。


観察という視点が、当然のことながら、視覚的なことや、過去、現在、未来への思考過程を再現するとなると、記憶について問わざるを得なくなる。

こころの印象、これを心象というが、この心象の目の前に繰り広げられる事象が、どのようにこころに映り込むのか、一瞬の観察対象に対して、こころがどのように反応するのか、これが、心象となっていく。

あまり積極的には経験したくない例であるが、PTSDという病態がある。これは、極めて強い心象が残ることによって生じる。

少し極端ではあるが、このような例を参照することによって、心象の流れを把握してみよう。

まず、このメカニズムには記憶が関与する。記憶の流れには、銘記、そして保持、最期に想起がある。

この病態には大部分ファーストインプレッションとして、強い感情として強烈な恐怖がある。次に虚無感や無力感などに襲われるシチュエーション(状態)がある。

したがって殆どが戦争体験や暴力、性的犯罪被害や殺傷事件、交通事故やその現場を目撃した体験、自然災害などで命が危険にさらされたり、人としての尊厳が損なわれたりする経験などが原因となる。

突然、強烈な印象が生じることによって、こころに傷が付く。

これは、以前触れたように、「驚愕」という中心にある原初的センサーに反応し、それが、恐怖感情に影響を与える。

最近、性格特性検査にビックファイブが用いられているが、この性格特性では、神経症傾向がPTSDの後遺障害の発症転機を増やすファクターだとされている。そこで、神経症傾向のトリガーとなりやすい感情を恐怖を中心にみていくことにする。

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上の図は、ネガティブ感情に取り囲まれたマインドの構造である。

左上に恐怖のエリアがある。少し学術的になってしまうが、先ほどのパーソナル特性で神経症傾向の高い人は、全体的に感受性が強く、センシィティビティーが高いため驚きやすい特徴がある。したがって、感情的情報に対して繊細でありダメージを受けやすいと推測される。

「こころの立体モデル」に示す構造には、中心コアに「理の面」(基本四象限)を組み込んでいる。これは、結果の面として印象を焼き付ける黒板のようなものだ。ここに心象が描かれていく。つまり銘記の場だ。

さらに下の図は、中心部分には「知の面」が組み込まれており、これが、銘記から保持、そして保持から想起に関与する過程(プロセス)自体を示す面と考えていただいてよいだろう。

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最後に、「感の面」が、記憶保持自体に関与する。いわば、この面がトラウマを生み出す面として情動をかき乱す原因となる領域でもある。

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この大きな傷を、どのように癒すのか、それが『愛』の力といってもいいだろう。

② 人生に「生きがいを感じとる」とは

これら三つの面のそれぞれに、人生を健康にする秘訣がある。それは、医療社会学者アーロン・アントノフスキーの提唱したSOC(sense of coherence)感覚というものだ。彼は、健康創成論(健康生成論)を唱えた。

一般的に医学領域の免疫学、社会学などは、『人は何によって病気になるのか』、そこに病気の原因を求めようとする。しかし、彼は、『人は何によって健康になるのか』、そこに健康を創生する要因を求めようとした。

健康生成論:何が人を健康にするのか
疾病生成論:何が人を病気にするのか

そして、人を健康にする要因には3つの視点があることを示した。

理解可能性(わかる感)
対処可能性(できる感)
有意味性(やるぞ感)

というものだ。※詳細については、SOC感覚を参照。

そう、分かることと出来ることは違う。分かっているけど、できないこともある。また、有意味性というのは、その人の持っている「価値」と密接に関係する。

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私たちのマインドのコアモジュールは三つの力により、メンテナンスが組まれている。三つの矢印の方向 ※1を見ると、悲しみ、恐れ、嫌になる。この心境からどうしたら抜けられるのか。

※1 令和4年1月29日追記;この矢印の方向は、「愛の境界エピソード7」で詳細に説明した、基本のネガティブとポジティブの感情モジュールのうち、共感(共)と悲哀(悲)の位置に相当する。「理の面」(青)は「心理」、「知の面」(緑)は「蓄積」、「感の面」(赤)は「気力」という側面アスペクトが関与する。また8つのフェーズの位置は「心」に相当する「場」である。つまりここが「記憶」という媒体が「愛」を醸し出している「場」と考えて良いだろう。そういう理屈で次の文章につづく。

分からない、出来ない、やる気もない。このような方に、ここでは簡単に『愛』の力を見出す方法を伝授しよう。

その前に、もう少し理論的な事を、備忘録的に記しておこう。これらのことは全く理解する必要はない。が、教えられたことを実行したあとで思い出していただくことで、さらに励みになるだろう。

幾何学的に、マインド内の精神力動メカニズムを、単純なベクトルに表現したのが下の図だ。内面の内向きで、気分は下向き。

分からない、できない、やれない、三ない節が出てくる。

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この内面、内向きに向かうベクトルを反転させることで、心理的な変化が生じる。下の図は、ポジティブマインドを配置した図である。

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外面、外向的で活力をもったマインドをベクトルに乗せる。そうすると理論的には、寄り添う心(惻隠)と喜び、そして肯定感を持つことができる。

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このベクトルの向きは、単純な内面から外面へのシフトに過ぎない。しかし、このようなシフトが簡単にできるのか。

その簡単な方法とは、実は上でも示した通り、体を使うことである。そうすることで、三つの面が整うようになる。このマッピングからもそのことが裏付けられるし、実際にそうすることでマインドの調整が可能なのである。

では、その体を使う簡単な方法とは何か。

仏教で『作務』と言われていることだ。

炊事、洗濯、掃除など家事に近いことである。その中でも、秀逸なのは、掃除、片付けだ。

ご存知の方も多いことだろう。ベストセラー『片付けの魔法』。

この本には、片付けの極意が記されている。心の整理をしながら、片付けを行う。ここに「体を使いながら、こころを浄化する」方法がある。

③ 奥行の視点

奥行にまつわるお話を最後にしよう。

特に片付けをするとき、物を捨てる行為がある。この行為は、過去との出会いや自らの行動の軌跡との対面に他ならない。モノと最初に出会ったその時の心情に再度出会うのだ。それは、過去の自分との対面である。つまりモノの縁取りに残る記憶という媒体を通して再びその心情に出会っている。

自分の身の廻りにあったもの、これは、私たちの「精神」活動を支えるものだ。たとえそれが、まったく触れられなかったとしても。

すなわち、使わなかったことが、あるいは使ったこと、その所作の一つひとつがそのモノと私の精神的な関連を意味している。

それを捨てるときに、ある儀式を行い、自分との関係性を確認する。それが一つの奥行感であり、モノへ対する礼儀だ。それはすなわち自分に対してあるいは、他者に対する礼儀も伴う。

その視点は、受容という中心にある。

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自らの視点を肯定的に捉える練習をするのだ。

次回は『愛の目的』について検証する。






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Dr.「こころから研究所」Co-colo-color.Labo.
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