【小説】娘とダンナ
うちのダンナはタクシーの運転手だ。
コロナが始まったとき
真っ先に心配したのはダンナのこと。
まず1つ目が東京都内を走り回って
不特定多数のお客さんと接触する。
2つ目は
30年近くやめてほしいと言っているが
聞き入れてくれないタバコを吸っている。
3つ目は、還暦を過ぎている。
帰ってくるたびに
「咳出てない?熱ない?」
と確認してホッとしていた。
そして都内が自粛ムードになったとき
「無期限の出勤停止」になり
家にいることになった。
そのころ高校生の末娘も
学校がおやすみになっていたので
家にいる。
「こりゃ、家の中が騒がしくなるなぁ…」
と思っていた。
高校生の末娘は
一般的な多くの高校生と同じように
「お父さん」という存在を
嫌いではないけどけむたがっている。
「『ずっと家にいる』って言ったら
なんて反応するかな〜」
そう思いながら恐る恐る娘に伝えてみると
「あ〜良かった」と一言。
「え〜そうなん?心配してたの?
なんていい娘なの〜〜〜」
と感動した。
ダンナももちろん悪い気はしない。
なるべく娘のやることに
口を出さないようにしていた。
もともと娘には甘いので
何かとサポートをして
気に入られるようにしていたのを
私は見逃さない。
そして1ヶ月後。
娘の学校が始まった頃
娘が言った。
「ね〜父ちゃん、いつまで家にいるの?」
「ずっと家にいるよ」
「嘘でしょ?仕事行かないの??」
ダンナの会社は神様のような会社で
60歳以上は自由意志で
出勤しても休んでも良いというお達し。
お給料はもちろん下がるけど
基本給はいただけるとのこと。
ダンナは
しばらく他の仕事を模索したいからと
無期限の休暇に入っていた。
その旨を伝えると
「信じられない…」と言いながら
不機嫌そうに自分の部屋に入っていった。
そしてコロナ渦の我が家が始まった。
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