○日後に死ぬ父
旦那の父が前立腺がん末期であることを知らされたのは、もう10年も前のこと。それ以来、毎年「これが最後のクリスマスになるかもしれない」と言われ、飛行機で4時間かけてパースまで行き、約1ヶ月間実家で一緒に過ごすのが恒例となりました。2年前には「本当に今年が最後かもしれない」と言われ、7ヶ月も一緒に過ごしましたが、それでも義父は元気でした。10年も経つと、まるで冗談のように思えてきましたが、とうとうお迎えが近づいてきたようです。
がんは全身に転移し、今では治療の施しようもない状態です。オーストラリアではこうなると病院から終末期医療施設に移されます。その施設はとても綺麗で広く、個室には大きな庭も付いています。家族が寝られるベッドもあり、義母もそこで寝泊まりを始めました。医者の友人からは「施設に移ったら、だいたい2日ほどで亡くなることが多い」と言われました。今日はその2日目ですが、まだ義父は息をしています。
昨日、義母が義父にキスをしたときのこと。義父は義母に向かって、「これを僕の奥さんが見たらどう思うかな……」と言いました。義父は義母を誰か別の人と勘違いしたようで、とっさにこの言葉が出たのです。旦那がその話を笑いながら電話で私に話し、病院にいた家族も、私も笑いました。でも義父だけは笑っていませんでした。
そのとき、義父の心はどこか遠くに行ってしまったのかと、なんとも言えない気持ちになりました。いつもジョークを言って私たちを笑わせてくれた義父。あの日の表情が、今も鮮明に思い出されます。
最近は「死んだら〇〇」「葬式の準備」といった話が多くなりました。私は飛行機で4時間離れた場所に住んでいるので、簡単には会いに行けませんが、今年はすでに3回会いに行きました。もし明日亡くなったらどうするか、3週間経っても亡くならないかもしれないけどいつ航空券を買えばいいのか。こんなことを話していると、情けない気持ちにもなりますが、これが現実なのだと感じます。私たちは今を生きていて、娘には行かなければならない学校があり、他にもいろいろな事情があります。
私の母は、私が25歳のときに亡くなりました。末期には母も認知が進み、最後の姿が私の記憶に深く刻まれ、今でもそのときの母が夢に出てきます。それを思うと、今生きている娘の祖父に、死ぬ前に会わせるべきかどうか悩みました。祖父はいつも娘と全力で遊んでくれて、娘もそんな祖父が大好きです。きっと祖父も会いたいはずです。いろいろと迷いましたが、航空券を購入しました。
私たちが到着する頃、義父はまだ息をしてくれているでしょうか。
今、義父は何を考え、天井を見つめているのでしょうか。
10年間、本当によく頑張りました。今月はずっと痛そうでした。もう楽になりたいですか。それでも生きたいですか。
あなたの優しさ、笑顔は絶対に忘れません。大好きです。
お父さん、もうすぐ会いに行きますね。