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【映画の噺#9】「羊たちの沈黙」と「ソウ(Saw)」の関係
「羊たちの沈黙(原題:The Silence of the Lambs)1991年 米国」は、言わずとしれたサイコ・サスペンス、ミステリ映画の傑作です。
連続殺人事件の犯人を追う若いFBI訓練生と、助言を与える過去の猟奇殺人犯という組み合わせが斬新でした。
いっぽうの「ソウ, ソウ2」は、ソリッド・シチュエーション・ミステリと言うコピーが生まれたように、閉鎖空間での緊迫したやりとりが魅力的。
関係なさそうなこの三作品ですが、意外なつながりが・・・
できるだけネタバレしないよう、ご紹介してみます。
(見出し画像のImage Souse=the Silence of the Lambs | October 14, 2022 | UW-Parkside (uwp.edu))
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当たり役だった「レクター博士」
「羊たちの沈黙」は、第64回アカデミー賞で主要5部門を制覇したというのも頷ける名作スリラー。トマス・ハリスの原作を忠実に映画化したもの。
アメリカ各地で、若い女性が狙われる連続殺人事件が発生する。遺棄された遺体から、皮膚が剥がされていたことから、このシリアル・キラー(連続殺人鬼)は「バッファロー・ビル」と呼ばれた。
バッファロー・ビルは実在した西部開拓時代のガンマン。
名誉勲章を受章した人物だが、獲物のバッファローの皮を剥ぐことから殺人鬼の異名にされた。お気の毒・・・
FBI訓練生のクラリス・スターリングは、訓練中に行動科学科のクロフォード主任捜査官に呼び出され、事件の捜査協力を要請される。
行動科学科(BSU)とは、犯罪行動の特性から犯人の特徴を絞るプロファイリングを専門とする部署。
実際にこの時期から、捜査に採用され始める。
日本のように、単一民族・単一言語の国では、犯罪捜査は聞き込みや証拠集めによって行われる。しかし、多民族・多言語の国アメリカでは、あらかじめ犯人像を絞ることで、捜査を効果的に進めることができるケースも多い。
クラリス捜査官は、元精神科医で逮捕されていた連続殺人犯レクター博士の助言を得るため、ボルティモアの監獄へと赴いた。
レクターは凶悪犯の心理に詳しく、またかつての患者に犯人がいる可能性もあったのだ。
クラリスを演じたジョディ・フォスターの演技がすばらしく、ラストでは本当に息が詰まるようなシーンが繰り広げられる。本当に見終わったあと、素潜りから海面に顔を出したように、『ぷは~』と言ってしまった。
彼女がアカデミー賞を受賞したのも当然だ。
しかし、何と言ってもアンソニー・ホプキンスが演じたレクター博士。ミステリ史上に残る、異色の名探偵だ。
レクターはクラリスに対し、協力の見返りに彼女の生い立ちを話すようもちかける。
タイトルの「羊たちの沈黙」とは、クラリスが幼い頃に引き取られた親戚の牧場で、屠殺される運命の羊を救おうとしたエピソードに由来する。
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オドロキの連続「SAW」
「ソウ(Saw)2004年 米国」は、多くのシーンが限られた空間で繰り広げられる密室劇でありながら、観るものを退屈させない怪作。
脚本を書いたリー・ワネルが、主要登場人物を演じる自作自演でもある。
アダム(リー・ワネル)が気絶から覚めると、きったない老朽バスルームに監禁されていた。
足は短い鎖でパイプに繋がれ、対角線上には同じく鎖で繋がれた医師ゴードンが居る。
そして、中央には血を流した遺体と拳銃。
ゴードン医師の記憶から、ジグソウ・キラーと呼ばれる連続殺人犯の仕業だと心当たりがあった。
ゴードン自身が、犯行現場に残された所持品から容疑をかけられたため、その連続殺人鬼に対する知識がったのだ。
ジグソウは、自殺未遂者、放火魔、薬物中毒者など人命を軽んじる人間を拉致しては、命を賭けたゲームを仕掛けていた。
ジグソウ自身は、そのゲームの成り行きを最前線で鑑賞していたらしい。
アダムとゴードンも、そのゲームの渦中に放り込まれ、互いに相手を殺すよう命じられるのだったが・・・
二転三転する展開と、意外な犯人に最後の最後まで翻弄される、エンタメの手本のような作品。
ジグソウが簡単に人を誘拐してしまう、などリアリティは無視されているが、その欠点を補って余りある展開の妙がある。
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見るべきは「SAW2」まで
ソウのシリーズは九作品ある。
しかし、観るべきは最初の「ソウ」とその続編「ソウ2」までで、あとは設定が同じと言う興味だけで面白くはない。
「ソウ2」では、出口の無い洋館に閉じ込められた、8人の男女がジグソウ・キラーの殺人ゲームを強制される。というテレビ・ゲームのようなシチュエーション。
テレビ・ゲームのほうが後発だから、この言い方は間違っている・・・か。
違法な捜査手法によっても、犯人逮捕に執念を燃やしてきたエリック刑事が、ジグソウ捕縛に立ち会う。
しかしカメラ中継によって、自分の愛する息子が拉致され、ジグソウのゲームを強制されていることを知らされる。
殺人ゲームを行わされているメンバーには、兇悪な連中も含まれていた。彼らはエリックの違法捜査で摘発されたり、証拠のでっちあげで人生を狂わされた者たちだった。
ゲーム・メンバーにいるのが、自分の息子だと気づかれると、タダでは済まない。
中継を観るエリックは焦燥に駆られ、徐々に理性を失ってジグソウから暴力で現場を白状させようとするが・・・
一定の時間で効果を表す毒ガスだとか、タフで兇悪な連中がジグソウに易々と誘拐される、とか、警察の内部調査でさえ知らないエリックの不正を、なぜジグソウが把握しているのか、とか・・・
例によって、リアリティには疑問があるが、それを上回る展開の面白さがあって、引き込まれてしまう。
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トリックは見せ方が大事
さて本題の「羊たちの沈黙」と「ソウ」の関係だ。
ネタバレしないよう詳細をはぶくが、羊たちに使われているトリックが、ばらばらにされてソウに応用されているのだ。
そう聞いても、初見ではわからないほどに換骨奪胎されている。
しかし、観終わって冷静な頭で分析すれば、ああこのシーンがこう応用されているのか、と納得される。
「羊たちの沈黙」には、推理小説で言う「叙述のトリック」に当たる、シーンの繋ぎの黙約を利用したダマシも使われている。
またこれが、うまく「ソウ2」に応用されているのだ。
日本では推理小説の名作が、まんまマンガに転用されたことがありました。いくら登場人物がちがい、小説とマンガのちがいある、と言ってもこれはアウトだと思います。
いっぽう、同じ映画であっても、うまく違うシチュエーションに応用すれば、見応えのある作品になる、というのが「羊たち・・・」と「ソウ」の関係です。
トリックは、見せ方が大事だと思うのです。
#羊たちの沈黙 #アカデミー賞 #レクター博士 #ソウ #ソウ2