
【科学夜話#16】エジソンは何を「発明」したのか?
エジソンがエライ人なのは、常識です。
蓄音機、白熱電球、活動写真など、その発明品は現代の我々に欠かせないものとなっています。
でもよくよく調べていくと、なんだか「常識」とは異なるエジソンの姿が、浮かび上がってきます。
踊るヒマも歌うヒマもないほど、発明に邁進したエジソンの本当の姿について、考えてみました。
(画像はGordon JohnsonによるPixabayからの画像)

いやがらせの達人エジソン
エジソンが生まれた1847年は、日本では遠山の金さんが南町奉行所で「この桜吹雪が・・・」とか言っていた。
エジソンはゼネラル・エレクトリック社の前身となる会社のひとつを、興している。
しかし今やよく知られるように、本当の天才だったニコラ・テスラが提唱する交流送電システムに対し、エジソンは直流電力を採用して電力戦争に破れることになり、社名からも「エジソン」が外された。
細かいことを除けば、交流のほうが送電でも発電でもコスト優位だったからだ。
しかし日本が東西で、60ヘルツ支持者と50ヘルツ愛好者に分かれているように、エジソンにダマされて直流を採用した地区もあって、後年苦労した。
エジソンは相手側を貶めるため、野良犬や猫を交流で殺処分してイメージダウンを図り、さらに交流式の処刑用電気椅子まで発明した(正確にはエジソンの社員が・・・)。
またエジソンは、映画(カメラと映写機)に関する特許権を主張し、特許料を支払わない会社に対しては、カメラやスタジオを破壊させる、といった暴挙に出る。
発明に邁進する崇高な研究者、という創られたイメージからはほど遠い、トンデモ親父だったようだ。

「発明」とは何か?
日本の特許法は、発明を「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と第2条第1項で定義している。
蓄音機の「発明」をたどると;
1857年にフランス人のスコットが、音声の振動波形を記録する「フォノトグラフ」を創り、1877年4月にはクロスが音声に戻すことができることを確認した。
同年(1877年)12月に米国のエジソンが、録音再生できる「フォノグラフ」を創ったとして大々的に発表する。
しかし実用的な音量が出る再生機は、1887年に円盤式蓄音機のもとになる「グラモフォン」をドイツから米国に帰化したベルリナーが創るまで、待たねばならなかった。
白熱電球を発明したのは、エジソンではなく英国のスワンだった。1860年代のことだ。特許化もエジソンより早い。
エジソンは、スワンの白熱電球に使われるフィラメントとして、適した素材を大がかりに探した。その中には、日本の竹もあった。
エジソンの事績をたどると、彼がオリジナリティを発揮した「発明品」はひとつもないことがわかる。
彼は先人の「発明」を大がかりなものにしたり、素材を最適化するなどして、実用化への先鞭を付けることに腐心する開発者だった。
ただし開発者として先見の明があったかというと、直流電力への固執でもわかるように、その能力も怪しい。
ただ自己演出には長けており、メンローパークの魔術師(The Wizard of Menlo Park)などのキャッチ・コピーは秀逸と言えるだろう。さらにえげつないネガティブ・キャンペーンを、平気でやれる胆力があった。
また当時、技術の中心地だったヨーロッパに対し、新興国アメリカがウチにもこんな技術があるんやで~、と主張を始めた時期に、うまくはまったとも言える。

先願主義と先発明主義
エジソンが発明王になったのは、米国の特許法の盲点やら弱点を出し抜く手段に長けていたからだ。さらに言えば、これに歩調を合わせる形で新興国アメリカが、自国の利益のために動いたことによる。
これによって世界中の科学者は、以後100年にわたって苦しめられることになる。
「特許」とは発明者の権利を保護し、発明に値する利益を保証するものだ。
その発明者の認定のしかたによって、大きく二つの方針がとられてきた。
ひとつは「先願主義」で、特許庁に発明に関する文書を早く提出したほうを発明者とするもの。日本を含む多くの国が、この方針をとっていた。
もうひとつは、「先発明主義」で、字の如く先に発明した方を発明者とするもの。アメリカは、オバマ大統領が是正する2013年まで、この方針だった。
先に発明したほうを、どうやって決めるのか?
ちょっと前の「なんちゃら細胞」騒動のときに、研究ノートが脚光を浴びたことがある。
日本メディアは例によって「精神論」ばかり強調したが、研究ノートが重要だったのは、米国が先発明主義だったためだ。そう、ノートなどが「証拠」となって発明日が決まるのだ。
米国で特許を取るため、ノートの細かな記載や現認者のサインが必要になる。
エジソンは発明を行う創造力はなかったが、特許を利用する手段には長けていた。だからどう見てもありえないくらい、広い請求範囲つまり権利を取得することに成功していた。
そのため電球の発明者はどうみてもスワンだが、広範囲の特許をもっているエジソンが発明者と思っている人も多い。
各国は、自国の研究者に「エジソンのやり方」に対抗できるよう、強いるしかなかった。

アンチ・エジソンが現代文明を築いた
エジソンの暴挙によってNYを追い出された映画関係者たちは、やがて西海岸のハリウッドに集結し、映画産業の礎を創る。
エジソンのネガキャンに苦労させられながらも、ウェスティングハウスは真の天才テスラと共に、交流電力網を実用化することに成功する。
エジソンが科学界に与えたマイナスの影響は、思っているより大きなものかもしれない。アメリカ独自の特許法というダブル・スタンダードは、科学に携わる者に、よけいな負担を強いてきた。
エジソンに発明の才はなかったが、特許法の弱点をつくというマジックによって、後世の科学者に悪影響を及ぼし続けたのだ。
エジソンは体系的な科学を学ばず、独学によってその地位を築いた。もちろんそれは、賞賛されるべきことだ。
しかし、それを「発明」など創造性の基準で計るべきではない、と思う。
エジソンのネガティブな面を、取り上げる形になりました。
子ども時代に、エジソンの伝奇の感想文を書いてファンになった皆様、申し訳ありません!
しかし自分としては、偶像化されたエジソンはあまり好きになれなかったのですが、「人間」エジソンの卑怯っぷりやアクの強い発明オジサンっぷりは、共感できる部分が多くあります。
バラエティ番組に出てくる発明オジサン。
ああいう、ちょっと振り切れたオジサンが、むしろ本当のエジソンの姿に近かったのではないでしょうか?