肌も心も喜ぶスキンケア研究【スキンケアの心理的効果と肌への影響】
最近は成分重視のスキンケア選びがトレンドですが、スキンケア化粧品には毎日使いたくなるような心地よい使用感も重要です。
どんなに良い成分が入っていても、ベタベタしたり、伸びが悪かったり、使用感が好みじゃないと、継続して使いたいとは思えませんよね?
私も処方開発者としてたくさんのスキンケアアイテムの開発に携わったことがありますが、製品のコンセプトやターゲットに合った心地よい使用感にたどり着くために、数えきれないほどの試作を繰り返しました。
化粧品メーカーは成分や効果を追求する研究だけでなく、五感で楽しめる化粧品やスキンケア方法の開発にも取り組んでおり、心地よい使用感がその場限りの感覚だけでなく、肌の質感向上にもつながることを科学的に証明するための研究も行っています。
今回はそんな化粧品メーカー各社の「肌も心も喜ぶ」スキンケア研究の一部をご紹介します。
心で感じるスキンケア研究<心感研究>(花王)
花王は、化粧品の成分や処方だけでなく、スキンケア時に喚起される“幸福感”や“満足感”にも肌を美しくする力があるのではないかという考えのもと、人の内面(心)にも着目し、心と肌の美しさの関係性を科学的に検証する「心で感じるスキンケア研究(心感研究)」に取り組んでいます¹⁾。
研究① スキンケア時の触覚刺激(ハンドプレス)による快感情が肌の質感向上に及ぼす効果
【試験条件】
20-39歳の大きな肌トラブルがない女性80名が対象。クリーム製剤を1日2回(朝と夜)4週間使用。
【評価指標】
<肌の質感スコア>
客観的な目視評価のトレーニングを積み、一定の評価基準を有する専門家によって、うるおい・乾燥感のなさ・つや・透明感・黄みのなさ・くすみのなさのスコアを「ない(-3)」~「ある(3)」の7段階で評価。
<快感情の程度>
「化粧版感情評価尺度」における快感情に関わる8つの感情因子について、試験期間(4週間)の平均を算出。これらを平均することで総合的な快感情値を算出し、快感情が特に高く喚起されたグループ(n=20)と、快感情があまり喚起されなかったグループ(n=20)間での比較を行いました。
【試験結果】
クリームの使用により快感情が喚起され、その中でも特に快感情が高かったグループは、快感情があまり喚起されなかったグループと比べ、肌の質感スコアが向上していることを確認しました。
以上の結果より、スキンケア行為により生じる快感情が、肌の質感(見た目の肌状態)を向上させる可能性が示唆されました²⁾。
研究② 製剤のテクスチャーによる快感情の程度の違い
【試験方法】
20-49歳の女性15名を対象に、塗布感触の異なる4種のクリームA、B、C、Dを前腕内側に自身で塗布し、その際の脳血流変化量を計測。
塗布刺激は、1回20秒間、安静状態20秒間を交互に計4回実施し、塗布中と安静状態の脳血流変化量の差分の標準得点を算出しました。
【試験結果】
クリームを前腕に塗布するというスキンケア行為において、クリームの感触の違いによって、脳の前頭前野の血流変化量が異なることを確認しました。
脳血流量変化に有意差のあったクリームCは、コクとしっとり感があり、肌なじみがよいという特徴がありました。
以上の結果より、「コク」「しっとり感」「肌なじみ」の3つの感触要素を高いレベルで同時に満たすクリーム製剤を塗布することで、その他の製剤と比べて快感情が高まることが、感覚的なアンケートだけでなく脳血流変化量計測の結果からも確認されました³⁾。
スキンケア方法が肌と心に与える効果の研究(コーセー)
コーセーは独自のスキンケアメソッド「おもいやりメソッド」を開発し、脳波とオキシトシンの測定によって「おもいやりメソッド」が肌と心に与える効果を検証しています。
「おもいやりメソッド」とは?
コーセーが2021年4月から展開しているスキンケア商品の塗布方法。クレンジング、化粧水、美容液など8カテゴリーの基本的なスキンケア商品について、 リンパの流れを意識した簡単かつやさしいタッチで行うテクニックを提唱し、公式HP上で使い方動画を公開しています。(https://maison.kose.co.jp/article/c/c10/#movie)
研究概要
20~50代の男女39名を対象に、洗顔や化粧水といったスキンケアアイテム使用時に、コーセーが開発した「おもいやりメソッド」を実施。
実施前・1回実施後・実施1ヶ月継続後の計3回のタイミングで、脳波・唾液中のオキシトシン・肌状態の測定を行い、肌と心への影響を評価しました。(被験者は試験前から同アイテムを使用しており、単純な化粧品使用による効果でないことは検証済み。)
研究結果
「おもいやりメソッド」を1回実施することにより、脳波から得られる「満足度」を反映する指標が有意に上昇しました(図1)。
唾液中のオキシトシン分泌量も有意に増加(図2)。
1ヶ月継続して行った後も同様の傾向が見られました。
「幸せホルモン」とも呼ばれるオキシトシンは、嬉しいときや心地よいときに脳から放出されることが知られており、快感情を客観的に示す指標としても用いられています。
図1、図2の変化は、やさしく肌に触れる行為により満足感という快感情を抱いたことが脳波に表れ、オキシトシンの増加につながったと考えられます。
さらに、肌への効果については、「おもいやりメソッド」の1ヶ月継続により、明るく透明感のある印象への変化などがみられました。
専門評価者の目視評価において、素肌の透明感スコアの有意な変化が得られ(図3)、しみの数の減少、肌の凹凸や色味の均一性の向上も確認されました⁴⁾。
「おもいやりメソッド」の継続による肌の変化は、リンパの流れを意識した行為によって、水分や老廃物の排出がスムーズになったことが一つの要因として考えられます。
これらの結果より、リンパの流れを意識した肌にやさしく触れるスキンケア方法によって、肌と心に良い効果をもたらすことが確認されました。
まとめ
化粧品メーカー各社の「肌も心も喜ぶ」スキンケア研究はいかがでしたか?
今回ご紹介したのはごく一部で、心地よい使用感をもたらす化粧品の開発やスキンケアが肌と心に及ぼす影響についての研究はこれからも進化していくと考えられます。
心地よい使用感が肌に良い効果をもたらすことは科学的にも証明されているので、みなさんもぜひ成分だけでなく化粧品の使用感やスキンケアの心地よさにも着目して、スキンケア選びを楽しんでください♪
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(執筆:なな)
【参考文献】
1)花王が取り組む「心で感じるスキンケア研究‐心感研究‐」。新たな価値提案を追求する研究員の思いと、最新オキシトシン研究に迫る,PRTIMES STORY,2024年10月8日アクセス
2)快感情が肌の質感向上に影響を与えるスキンケアの効果を確認,花王ニュースリリース,2024年10月8日アクセス
3)スキンケア時に肌に触れることで得られる“心地よさ”と脳の血流変化量との関連を確認,花王ニュースリリース,2024年10月8日アクセス
4)コーセー独自のスキンケアテクニック「おもいやりメソッド」が肌と心にプラスの効果があることを確認 ~肌スコアアップに加え、脳波の「満足度」が上昇し、オキシトシンも増加~,PRTIMES,2024年10月8日アクセス
5)スキンケア化粧品の快い使い心地が心拍変動性と脳波へ及ぼす影響,岡田明大,日本生理人類学会誌,Vol.4,No.3,(1999年8月)
6)快感情を喚起する触覚刺激によるオキシトシン変化と肌の質感との関連性解析,坂本考司 , 原水聡史, 征矢智美, 中野詩織, 松本雅之 , 中村純二, 日本化粧品技術者会誌,56巻,3号,p247-252,(2022)