酸化亜鉛は毛穴に詰まる!?化粧品開発者から見た「酸化亜鉛」のメリットとは
最近、SNSを中心に「酸化亜鉛は毛穴に詰まる」というウワサが広がり、「酸化亜鉛フリー」の製品も増えてきているように感じます。
しかし化粧品開発経験者の視点から見ると、毛穴の詰まりは酸化亜鉛だけが原因ではなく、(肌に合わない方は別として)「酸化亜鉛フリー」にこだわる必要はないと考えています。
「酸化亜鉛は毛穴に詰まる」というウワサを信じている方も疑問に思っている方も、この記事を読んで酸化亜鉛の性質やメリットを知った上で、避けるべきかどうか判断していただければ幸いです。
酸化亜鉛とは
酸化亜鉛は代表的な紫外線散乱剤の一つ
日焼け止めやファンデーションなどに配合される紫外線防御剤には、紫外線を反射・散乱させる紫外線散乱剤と、紫外線を吸収する紫外線吸収剤があります。
酸化亜鉛は代表的な紫外線散乱剤の一つ。
現在、日焼け止めなどに使用されている紫外線散乱剤は、ほとんどが酸化チタンと酸化亜鉛です。酸化セリウムなど、新しい紫外線散乱剤もありますが、実績は少なく今はまだ一般的ではありません。
酸化チタンと酸化亜鉛の違い
酸化チタンや酸化亜鉛などの紫外線散乱剤は、紫外線を散乱させるだけでなく吸収することもわかっています。
酸化チタンは主にUVB領域の紫外線を吸収するため、UVBの防御剤として使用され、酸化亜鉛はUVAからUVBまで幅広い波長の紫外線を吸収し、主にUVAの防御剤として使用されています。
粉体の紫外線散乱剤は、原則として粒子サイズが小さくなるほど透明性が上がり、白浮きやきしみ感が生じにくくなります。
粒子サイズが同じ場合は、酸化チタンに比べて酸化亜鉛の方が透明性が高く、白浮きしにくいのが特徴です。
酸化亜鉛の安全性
酸化亜鉛は40年以上の使用実績があり、皮膚刺激性やアレルギー性などさまざまな試験で安全性が認められています。
金属アレルギー(特に亜鉛アレルギー)の方は注意が必要ですが、日焼け止めなどに使用されている酸化亜鉛は表面にコーティング処理されているものが多いため、実際にアレルギー症状を起こす可能性は低いと考えられます。
また、近年ヨーロッパを中心に議論されている、酸化亜鉛や酸化チタンなどの「ナノ粒子」が人体に及ぼす影響については、日本化粧品工業連合会(現・日本化粧品工業会)による2014年6月の報告で、微粒子酸化亜鉛を紫外線散乱剤として使用することにおいて「リスクがない」あるいは「そのリスクは限定されたものである」と結論づけられています⁵⁾。
酸化亜鉛のメリット①:UVAを防ぐ
酸化亜鉛の一番のメリットは光老化の原因となるUVAを防ぐことができるということです。
UVAは皮膚の色素細胞に働きかけてメラニン色素の生成を促し、皮膚を黒く変色させるだけでなく、真皮の深部まで到達し、シミやシワ・たるみなど光老化の原因となります。
また、UVAはUVBに比べて年間での変動が少なく、冬でも夏の半分程度の量が降り注ぐため、一年中対策が必要です。
さらにUVAは雲やガラスを透過しやすいため、曇りの日や室内でも少なからず影響を受けます。
UVAは日常的に浴び続けることによってダメージが蓄積されるため、UVAを防ぐことができる日焼け止めを日常的に使用することが重要です。
酸化亜鉛フリーでもUVAは防げる?
酸化亜鉛は安全性が高く優秀なUVA防御剤です。酸化亜鉛の代わりにUVAの吸収能が高い紫外線吸収剤を配合したり、粒子の大きい酸化チタンの配合量を増やしたりすればUVAを防ぐことは可能ですが、刺激のリスクが高まったり、使用感が悪くなるといったデメリットがあります。
・紫外線吸収剤(UVA吸収剤)で防ぐ場合
UVA吸収剤としてよく使用されているのはt-ブチルメトキシジベンゾイルメタンという成分ですが、光劣化しやすいため紫外線に当たると効果が下がるという欠点があり、配合する際には処方上の工夫が必要です。
また、紫外線吸収剤は紫外線防御効果が高い反面、人によっては刺激を感じる場合があります。
・紫外線吸収剤を使わず、酸化チタンのみで防ぐ場合
前述した通り、酸化チタンは主にUVB領域の紫外線を吸収します。
粒子が小さくなるほどUVB吸収能は高くなり、透明性が上がって使用感も良くなりますが、UVAを防ぐためには光の散乱効果を利用する必要があるため、大きいサイズの酸化チタンを使用しなくてはなりません。
酸化チタンのみでUVAを防ぐためには、粒子径が大きい原料を使用し、配合量もたくさん必要になるため、白浮き・きしみが生じやすく、使用感が悪くなります。
使用感を優先して酸化チタンの配合量を減らしたり、粒子径を小さくすれば、UVAに対する防御力は下がってしまいます。
酸化亜鉛のメリット②:化粧崩れやテカリを防ぐ
酸化亜鉛には皮脂を吸着する作用があるため、化粧崩れやテカリを防ぐ目的でファンデーションや化粧下地などに配合されることがあります。
さらに、皮脂の中でも毛穴目立ちの原因にもなる遊離脂肪酸を吸着・固定化する性質があるため⁹⁾、毛穴に悪いというイメージとは逆に、毛穴の目立ちを抑えられる可能性があります。
酸化亜鉛は毛穴に詰まる?
実は「酸化亜鉛が毛穴に詰まる」というウワサには根拠となる論文やデータはありません。
ウワサのはじまりは調べてもわかりませんでしたが、酸化亜鉛の「皮脂を吸着する」という性質から、「皮脂と結合して毛穴に詰まる」というイメージにつながったのではないかと考えられます。
そこで、酸化亜鉛が皮脂を吸着するとどのような性状になるのか、予測するための実験を行いました。
【実験】酸化亜鉛は皮脂と結合して固まる?
酸化亜鉛は「皮脂と結合して固まる」と言われていますが、実際はどのような性状になるのか、皮脂と同じトリグリセリドが主成分の植物性油脂(オリーブ油)を用いて実験しました。
<試料>
メーカーや粒子径が異なる酸化亜鉛3種、酸化チタン2種
一次粒子径は以下の通り
・酸化亜鉛:①25nm、②20nm、③35nm
・酸化チタン:①250nm(アルミニウム処理)、②15nm
<検証方法>
Ⅰ 試料200mgにオリーブ油300μLを混ぜ、性状を観察
Ⅱ Ⅰをスパチュラで伸ばして観察
Ⅲ さらに少量をとって指で伸ばす
Ⅰ・Ⅱを見ると酸化亜鉛はモロモロとした半固形状、酸化チタンは比較的なめらかで白っぽい粘液状になっています。
さらに少量をとって指で伸ばすとモロモロは崩れ、Ⅲのように酸化亜鉛は半透明のペースト状、酸化チタンは白っぽい粉状に広がりました。
以上より、酸化亜鉛が油分を吸着するとある程度固まるということは分かりましたが、この結果だけでは酸化亜鉛が酸化チタンと比べて毛穴に詰まりやすいかどうかは判断できませんでした。
実際に日焼け止めやファンデーションに配合される際は、処方中に均一に分散された状態なので、Ⅰのような半固形状まで固まる可能性は低いと考えられます。
酸化亜鉛でニキビができる?
酸化亜鉛には「毛穴に詰まってニキビができやすくなる」というウワサもあります。そこで、酸化亜鉛とニキビの関係についても調べてみました。
酸化亜鉛は「亜鉛華軟膏」という塗り薬(医薬品)の有効成分です。
「亜鉛華軟膏」には皮膚の収れん(引き締め)・消炎・保護作用があり、赤ちゃんのおむつかぶれや面皰(初期のニキビ)の治療にも使用されます。
原料の規格や配合量が異なるため、酸化亜鉛配合の化粧品には亜鉛華軟膏のような治療効果はありませんが、「毛穴に詰まってニキビの原因になる」というイメージとは逆に、どちらかというと収れん作用で毛穴を引き締め、ニキビなどの炎症を抑え、余分な皮脂を吸着してニキビをできにくくする方向に働くのではないかと推測できます。
酸化亜鉛で毛穴が詰まる原因は?
酸化亜鉛で肌が荒れる場合は金属アレルギーの可能性がありますが、毛穴の詰まりに関しては酸化亜鉛だけが原因であるとは言い切れません。
酸化亜鉛や酸化チタン、もっと粒形の大きい着色顔料などが均一に混ざった日焼け止めやファンデーションの中で、酸化亜鉛だけが毛穴に詰まるというのは考えにくいので、毛穴が詰まる原因はもっと複合的なものであると推測できます。
しかし、実際に「酸化亜鉛配合の製品を使ったら毛穴が詰まった」という声もよく耳にします。
その原因の一つとして「日焼け止めやファンデーションをクレンジングで落とし切れていない」という可能性が考えられます。
酸化亜鉛自体にも水を弾く撥水性がありますが、日焼け止めやファンデーションに配合される原料は水や汗で流れにくくするためにシリコーンなどのコーティング剤で撥水加工されていることが多く、洗浄力の弱いクレンジングでは落としきれない場合があります。
酸化亜鉛を配合した日焼け止めやファンデーションで毛穴の詰まりを感じる方は、オイル系のクレンジングを使用して、毛穴に詰まった皮脂やメイク汚れとしっかりなじませてから洗浄することを心掛けてみてください。
また、酸化亜鉛の性質は、コーティング(表面処理剤)の種類、粒形、サイズなどによって違いがあり、目的によって使い分けられています。
表示名称は同じ「酸化亜鉛」でも撥水性や皮脂吸着作用などの性質は原料によっても差があり、毛穴に詰まるか否かは粉体の配合量、製品中の他の成分、併用している製品や肌質など多くの要因が関係しています。
酸化亜鉛に限らず、成分単体のイメージだけで配合製品をすべて避けるのはもったいないので、製品を実際に使ってみて自分の肌との相性で判断することをおすすめします。
まとめ
今回は「酸化亜鉛は毛穴に詰まる」というウワサを、いろいろな角度から検証してみました。
(本当は「酸化亜鉛が他の粉体原料と比べて特に毛穴に詰まりやすいわけではない」ということを実験でお見せしたかったのですが、前述した通り毛穴の詰まりには粉体の配合量や製品中の他の成分など多くの要素が関わってくるため、原料単体で比較しても正しい評価とは言えず、毛穴モデルを使用した試験でも正しく評価することが難しいと判断し、泣く泣く断念しました…。)
どこから発生したかわからないウワサと、今回示した客観的事実を比較して、どちらが信頼できると感じましたか?
もちろん酸化亜鉛が肌に合わないという方は無理に使う必要はありませんが、イメージでなんとなく避けていたという方は酸化亜鉛配合の製品も、ぜひ選択肢の一つに入れてみてください。
酸化亜鉛以外の日焼け止め成分についても詳しく知りたい方は、こちらの記事も読んでみてください!
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(執筆:なな)
【参考文献】
1)紫外線防御剤を用いた製剤化技術の開発,井上美緒著,(2014)
2)化粧品成分オンライン,化粧品配合成分「酸化亜鉛」,2024年8月9日アクセス
3)微粒子粉体:紫外線防止と粉体 ,坂井章人,色材協会誌(84)(9),329-334,(2011)
4)ナノマテリアルについて, 日本化粧品工業会HP,2024年8月16日アクセス
5)日本化粧品工業連合会,化粧品のナノテクノロジー安全性情報,2014年6月20日調査報告
6)化粧品開発に用いられる紫外線防御素材,本間茂雄著,(2014)
7)紫外線についての基礎知識, 日本化粧品工業会HP,2024年8月16日アクセス
8)紫外線の肌への影響, 日本化粧品工業会HP,2024年8月16日アクセス
9)化粧くずれ防止のための脂肪酸選択吸着, 野村 浩一, 高須 賀豊, 西村 博睦, 本好 捷宏, 山中 昭司,日本化粧品技術者会誌,33 (3) 254-266, (1999)
10)化粧品用粉体の表面をデザインする,福井寛,色材協会誌,92 巻 11号 (2019)
11)ファンデーションの機能と科学,樫本 明生,表面科学,25巻4号,(2004)