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リポソーム徹底解説【リポソーム化粧品 5つの利点】

リポソームといえばコスメデコルテ「リポソーム アドバンスト」シリーズが有名ですが、最近は化粧品の処方技術・製造技術の進化や、成分の浸透メカニズムにまで着目して化粧品を選ぶ消費者が増えている影響もあり、「リポソーム」を配合した化粧品がじわじわと増えてきているように感じます。

一方で、リポソームという言葉はまだまだ一般的ではなく、COCO.libraryのInstagramフォロワーさんにアンケートを行ったところ、75%の方がリポソームについて「よくわからない」と回答しました。

中には「成分名だと思っていた」という方もいらっしゃいましたが、実はリポソームは成分名ではなく、成分を必要な場所に届けるカプセルのようなもので、内包する成分によって効果が異なります。

そこで今回はまだ一般的にはよく知られていない「リポソーム」の効果やリポソーム化粧品の歴史について、基礎から詳しく解説します。
リポソームやナノカプセル技術を使用した化粧品を選ぶ際の参考にしていただけたら嬉しいです!


リポソームとは?

リポソームとは、細胞膜の主要成分でもあるリン脂質の二重膜で構成されたナノサイズのカプセルです。

リポソームの構造

親油基に挟まれた二重膜の内側(油相)には油溶性成分を、親水基に囲まれた内部のスペース(水相)には水溶性成分を保持することができ、有効成分を必要な場所に効率的に届ける「ドラッグデリバリーシステム(DDS)」の一つとして、医薬品や化粧品にも応用されています。
(成分の浸透やDDSについては詳しく話すと長くなるので、別の記事で解説します!)

また、細胞膜の主要成分であるリン脂質で構成され、生体膜と同じ二分子膜構造をとることから、人工の細胞膜として実験などに使用する生体膜モデルとしての研究も進んでいます。

リポソームの分類

リポソームは形状によって、脂質二重膜が多層に重なったたまねぎ状の多層リポソームと、脂質二重膜一枚からなる単層リポソームがあります。

多層リポソームと単層リポソーム
富士フィルムニュースリリース⁵⁾より引用

多層リポソームは多重層が外側から徐々にほぐれて中の成分を放出するため、成分の効果が長時間持続するというメリットがあります。

一方、単層リポソームは、(リポソーム自体の大きさにもよりますが)内部の水相のスペースが比較的大きいため、多くの水溶性成分を保持できるというメリットがあります。

製造機器や調製法によっても、できるリポソームの種類や大きさは異なりますが、それぞれのメリットやデメリットを考慮し、中に入れる成分やリポソーム化する目的に応じて使い分けられています。

化粧品におけるリポソーム 5つの利点

化粧品におけるリポソームの利点は、主に①水溶性成分の浸透促進②保湿効果③バリア機能の補強④徐放性⑤活性成分の安定化の5つです。

①水溶性成分の浸透促進

リポソームの効果と言えば、真っ先に「浸透促進」を思い浮かべる方が多いと思います。

皮膚への浸透を正しく理解するためには、皮膚の構造についての基礎知識や、成分の親水性・親油性、イオン性、サイズ感など、さまざまな要素が関わってくるのですが、ここでは簡単にリポソームによる水溶性成分の浸透促進作用についてお話しします。

水溶性成分は、皮脂膜や細胞間脂質などの油性のバリアにはばまれて角層内部に浸透しにくいという弱点があります。
そんな水溶性成分を、角層との親和性が高い(なじみやすい)リポソームの中に包み込むことによって、皮膚への浸透性を高めることができます。

水溶性成分の浸透性イメージ図
富士フィルムニュースリリース⁵⁾より引用

さらに、浸透促進剤の配合や脂質二重膜の構成成分を調整することによって、水溶性成分の浸透速度をコントロールし、皮膚の狙った場所に成分を届ける研究も行われています⁵⁾。

人工皮膚モデル膜における単層リポソームの浸透性試験
(富士フィルムニュースリリース⁵⁾より引用)
表皮用リポソームは浸透速度を抑えて角層にゆっくりなじむように、真皮用リポソームは角層内を素早く通過し、表皮の奥にある真皮まで届くように設計されている

②保湿効果

リポソームは細胞膜の主要成分であるリン脂質で構成されていて、角層細胞となじみやすいため、保湿成分や水分を効率よく角層細胞に届けることができます。

コーセー研究開発ページ「リポソーム」⁶⁾より引用
クライオ走査型電子顕微鏡という分析機器を用いてリポソーム製剤塗布後の角層を観察し、リポソーム製剤塗布により、角層細胞が保水構造を形成する(水分を含んでふくらむ)ことを可視化した

リポソーム配合美容液の連用による皮膚への保湿効果を調べた試験では、塗布期間中および塗布終了後の角質水分量が、塗布前と比較して有意に増加したことが報告されています³⁾。

③バリア機能の補強

リポソームを肌に塗ると、角層の内外でラメラ構造を形成することがわかっています。

皮膚表面の角層は「角層細胞」とその間を埋める「細胞間脂質」からできています。細胞間脂質は水分層と油分層がミルフィーユのように重なり合った「ラメラ構造」と呼ばれる立体構造を形成し、皮膚のバリア機能において重要な役割を担っています。

角層の構造

2021年に発表されたコーセーの研究で、リポソームを肌に塗布することによって、角層の表面と内部の両方でラメラ構造が形成されることが確認されました⁷⁾。

角層細胞間におけるラメラ構造の形成(電子顕微鏡像)
コーセー研究開発ページ「リポソーム」⁶⁾より引用

このことから、リポソームには肌が本来もつバリア機能を補強する効果が期待できます。

④徐放性

リポソームには内側に保持した成分を少しずつ放出する性質徐放性)があります。

リポソームに入れて成分の放出速度をコントロールすることによって、成分を表皮内の狙った場所に届けたり、表皮内に長く留めて内包成分の効果の持続性を高めることができるようになります。

また、刺激が強い成分をカプセル化し、少しずつ放出することによって、皮膚刺激をコントロールする効果も期待できます。

⑤活性成分の安定化

化粧品成分の中には、pH、温度、水分、空気中の酸素などによって分解したり変化したりして、効果を失ってしまう成分があります(ビタミンCやレチノールなど)。

このような不安定な成分をリポソームの中に包んで外部の環境から守ることによって、効果を保ったまま必要な場所に届けることができると考えられています。

リポソーム化粧品の課題点

リポソーム化粧品の課題点としては、①安全性②安定性に関する問題があげられます。

①安全性

化粧品成分は単純に「肌の奥に浸透すればするほど良い」というものではありません。

リポソームの浸透促進作用によって、刺激性のある化粧品成分が本来であれば届かない肌の奥まで浸透することで、皮膚への刺激が高まってしまう可能性があります。

ただし前述した通り、リポソームの徐放性によって皮膚刺激が抑えられる場合もあり、リポソームによって必ずしも皮膚への刺激が高まるというわけではありません。

②安定性

リポソーム製剤を長期間安定に保つためには、高度な処方技術や製造技術が必要です。

一般的にリポソームを長期間、安定に保つことは難しく、時間が経つと凝集や融合が起こって、白濁したり分離したりしてしまう場合があります。

さらに、リポソームの存在を確認するにも高額な機械や特殊な技術が必要で、安定性を証明するのも容易ではありません。

リポソーム化粧品の歴史

リン脂質は古くから化粧品の乳化剤や分散剤として配合され、1980年ごろから欧米を中心にリポソーム化粧品と銘打った製品が発売されるようになりました。

その後、日本でも多くのリポソーム化粧品が発売されましたが、当時は原料となるリン脂質の純度が悪かったこともあり、リポソームの安定性が保たれていない製品が多くみられました¹⁾。製造時にはリポソーム化されていても、購入者の手元に届いたときその構造が壊れ、リポソームの効果を発揮できていない製品があったのです

そのような状況で、1990年、リポソームの製品中での存在および安定性が不明確であること、またリポソームの経皮吸収促進作用による安全性の懸念があることから、厚生労働省よりリポソーム化粧品の安全性・安定性の基準が設けられました。(1990年9月13日付実務連絡 「リポソーム等配合化粧品の取扱い」)

この基準の設定以降、リポソームを標榜する製品の発売はしばらく途絶えましたが、1992年、国内で初めてこの基準をクリアした化粧品として、コーセーから「モイスチュア リポソーム」が発売されました。

1992年コーセーから発売された「モイスチュアリポソーム」
(リポソームの機能と医薬への応用¹⁾より引用)

「リポソーム等配合化粧品の取扱い」の基準は、2001年の化粧品制度の規制緩和にともない廃止されましたが、現在でもリポソームを商品説明などで大々的に表現しているメーカーはあまり多くありません。

理由としては、薬機法上、日本の化粧品は「医薬品のように効果があると誤認されないこと」に対してシビアに考えられているため、医薬品のような高い効果をイメージされやすいリポソームを広告として表現することが難しいという側面があります。

また、先に述べたように、リポソームの存在を調べる機械が高額で、安定性の調査を行うこと自体が難しいため、曖昧なまま広告表現を行わないメーカーも多いと推測します。

みなさんが使われている製品の中にも、リポソームと大々的には書かれていないけれど、実はリポソームの技術が使われている…というものがあるかもしれません。

まとめ

今回は化粧品におけるリポソームの利点や課題点、リポソーム化粧品の歴史についても、詳しく解説しました。

リポソームは中に入っている成分や構造によっても効果が変わるので、「リポソーム=良い製品」ではなく、「中に入っている成分が自分の肌に必要なものなのか」に着目し、刺激の有無にも注意して選んでくださいね!

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(執筆:なな)

【参考文献】
1)リポソームの機能と医薬への応用, 菊池 寛, 膜 ,34 (6), 328-335, (2009)
2)リポソームの化粧品への応用, 内藤 昇, 膜 ,31(4),221-223,(2006)
3)リポソーム技術の化粧品への応用, 炭田 康史, 膜 ,24(3),144-152,(1998)
4)新 化粧品ハンドブック,日光ケミカルズ株式会社他,2007年10月発行,「リポソーム」683-698
5)水溶性成分の皮膚への浸透性向上を実現、表皮・真皮への浸透を制御した独自設計の単層リポソーム2種を新開発, 富士フィルムニュースリリース,2022年6月6日,2024年10月24日アクセス
6)研究開発ページ「リポソーム」, 株式会社コーセー, 2024年10月24日アクセス
7)リポソーム製剤が形成するラメラ構造に着目した肌効果メカニズムの解明, 株式会社コーセー, 2021年12月14日リリース