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危うい住人、すてきな隣人

ベトナムの隣人との楽しい交流

この住まいは駅近でお手頃だったので、すぐに入居を決意した。右隣の部屋はベトナム人の一家で水産会社に勤めている。「サカナいっぱい。どうぞ食べて」と言って、ときどき冷凍の魚をいただいた。うちだけで食べられない時は、近所の人と分けあった。お隣りには、果物とスィーツのお返しであいさつした。じっくり話してみると、ベトナムと日本には共通の生活風習があることがわかり、楽しかった。とても静かに暮らしているので、いないのかなと思うことがあるが、ご夫婦と可愛い赤ちゃん、よく働くおばあさんの四人暮らし。一家の主人は早朝5時に出勤、帰りは8時、9時と結構遅くまで率先して仕事をしていた。奥さんも8時頃に赤ちゃんをおばあちゃんにあずけて、働きに出ていた。そのおかげで一家は半年後、埼玉に住まいをみつけて引っ越していった。せっかく仲良くなったのに残念だねと言って、天ぷらパーティを開いた。今も季節ごとにLINEメッセージを交換している。

お隣りがゴミ屋敷?やさしい元スポーツマン的おじさんが?

左隣は高齢だが、ラグビーでもやっていたと思えるようながっしりした体系の大きな男性でいつも警備員のような恰好をしていた。見た目のいかつさと異なり、やさしい物腰だ。そのうちあいさつもするようになったが、それ以上の関係にならなかった。ほどんど家にはいないが、道路沿いのガードレールに腰掛けてタバコ吸っているのをちょくちょく目撃した。それから数か月ほどたったある朝、マンションの廊下に家具が所狭しと並べられ、マンション管理者が数人の専門家を連れて隣の部屋を片付けている。「ここの人は何か困ったことになったとかで、先月末に出て行ったよ。それより、これ見て、ゴミ屋敷だ!」怒りもあらわに、管理人。「たばこの吸い殻をレジ袋に詰め込んだ山がいくつもできている。こんなに汚いのにニコチンのおかげでゴキブリは出ない。それだけはよかったねー」と妙なことに感心している。いつも道路沿いで喫煙していた理由がわかった。隣りがゴミ屋敷と知らず、何年も暮らしていたとは。都市伝説とはこういうことなんだろうか…。

ハイタッチが大好きなおちゃめ少女とのプレゼント交換!

わたしの部屋の真上に住んでいるのは親子3人の家族。いつかお隣りからもらった魚をおすそ分けして以来、親しくなった。一人娘のまいちゃんは、4歳の利発な子で幼稚園の年少さん。好奇心旺盛でいろいろ質問する。回答するとポケットからキャンディやクッキーをくれる。おじいちゃんかおばあちゃんの習慣かもしれない。そんな交流を通じてまいちゃんはわたしと友達になった。遠くから見つけると一目散に駆けてきて、ハイタッチする。それを見ていた一番奥の部屋のおじいさんは、「仲良しだね~」と、にこにこ言うとまいちゃんは「うん、一番大好きな友達」とおじいさんに紹介する。わたしにも「そうだよね~」と手を握る。困惑気味のママ。「ご迷惑かけてすみません」「いえ、いえ、子供がいないのでハルちゃんと友達になってうれしいですよ」と言った。バレンタインデーにはチョコレートと一緒にまいちゃんはわたしの絵を添えて贈ってくれた。わたしはまたお菓子をお花に添えてお返しした。この関係はわたしが引っ越すまで数年続いた。その後、まいちゃんの両親は、近くに小さな家を建てたので、年明けに引っすと案内をもらった。もうすぐまいちゃんも学校に行くから、独立した部屋を持たせてあげたかったから、とメッセージがあった。

こうして住人は大きく2つの道に分かれていく。努力して成功に向かう人、左隣りの人のように失敗して出ていく人。その年、わたしはある仕事に誘われ、生まれ故郷に戻ることになった。わたしが前者になるか、後者になるかはまだ不明だけど、前に向かっていくと思うだけで、まいちゃんがわたしに会う時わくわくしてくれたのが乗り移ったように、新しい生活に心躍る自分を感じていた。




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kyotoK
noteの2年目はチャンレンジングな創作にもアプローチしたいです。応援いただいたチップで取材をしたり、作品づくりに活用させていただきます!