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鉄腕アトムがエリに贈った人生 part 2
8年の歳月が過ぎた。エリは大学生になったが、今も変わらずアトム愛を持ち続けている。困った時にはアトムが助けてくれると信じていた。平和でおだやかなエリの日々が、ある出来事とともにガラガラと崩れていった。今度ばかりは、アトムに願っても解決できそうになかった。
---------------------------------- part 2 --------------------------------------------
その日は突然やってきた。エリは不気味な不安に…
ある日、久しぶりにアトムおじさんがやってきた。8年間、わき目もふらず、一心に働き、ひょんなことからある技術に関わり、成功したそうだ。それで生活を立て直し、結婚相手もできた。「長くお預けしてご迷惑をおかけしていたまんがを引き取りたい」、という要件だった。父母は宝物を預かる重責がとけて喜んでいた。けれどエリは…。アトムはエリのお守りだった。エリを励まし、勇気づけ、前に進む力をくれる。人生からアトムがいなくなるなんて、考えたことがなかった。しかし、その日は来週やってくる。エリは体中がぶるぶる震えるほど、不気味な不安に包まれていた。
アトムが去って、暗い気持ちのエリに、アトムがくれた幸運…
何事もなく平穏だったエリが直面する、はじめての陰り。アトムがエリの元からいなくなる。ショックで就職活動にも力がはいらない。アトムが去って、運が尽きたと思いはじめた矢先、アトムおじさんから電話があった。
母によるとおじさんは技術開発のチームリーダー。長年手がけた技術に特許が降りて、おじさんの会社は瞬く間に上場した。個人的にも相当な利益を得たらしい。まんがのような話しである。まんがの収集に明け暮れて、何もかも失くした叔父さんには、やはりアトムの力が宿っていたんだ、とエリは思った。いつもよれよれの格好をしたあのおじさんにそんな能力があったとは…。
おじさんが手塚治虫を評価し、作品が散逸するのを恐れ、私財を投じて保存しようとしたその気持ちは、エリには痛いほどわかる。しかし、成功してもその志しを持ち続けるおじさんは稀有な存在に違いないと、エリは叔父さんを誇らしく感じている。
おじさんの電話は「エリちゃん、今〈まんがミュージアム〉の再建を準備しているんだ。まんがを深く理解しているエリちゃんに実に来てもらいたい」という要件だった。願ってもないお誘いにエリは飛び上がって喜び、二つ返事で承知した。
恵比須のおしゃれな一角にある、古風な洋館。その1階に〈まんがミュージアム〉の看板があった。おじさんは玄関でエリを迎えた。以前の「まんが図書館」と「まんが博物館」の施設を融合させたユニークな施設を考えているという。「エリちゃん、キミの家に預かってもらっていた作品のほかにも買い足した作品が少なからずある。これらを整理し、分類するのは大仕事だ。手塚治虫の作品を本気で評価する者が必要だ。エリちゃん、知る限り、君以外に適任者はいない。〈まんがミュージアム〉を手伝うというより、一緒にやってくれないか」とエリには理想的というより、夢のようなオファーだった。
アトムおじさんとエリのライフワーク「まんがミュージアム」
こうしてエリはライフワークをみつけた。いえ、アトムが見つけてくれたのか…。おじさんの二代目として、このミュージアムを後世につなげていきたい。エリは「まんがミュージアム」の学芸員になった。叔父さんはほとんどすべての手塚作品を所有していた。エリはその仕事を始める前に、所蔵するすべての手塚作品を繰り返し熟読。おじさんの予想どおり、手塚作品をだれよりも深く理解するようになった。エリとおじさんの手塚愛は、アトムという存在があったからである。エリは今、「まんがミュージアム」の代表として、取材に応じ、雑誌の執筆、講演やセミナーにも参加する多忙な日々を送っている。
エリはアトムのシールを家具や冷蔵庫にぺたぺた張っていた頃も、アトムの雑誌がわが家にあった頃も、アトムや手塚治虫先生への尊敬は変わっていない。おじさんは、子供がある年齢の頃、手塚治虫に触れることで学ぶべきことが限りなくあるという信念で活動してきた。その志をつらぬくために、私財を投じて「まんがミュージアム」を創設した。そのために失ったものも少なくないが、エリを育て、ミュージアムを創設。エリを後継者に選び、二人で進化させてきた。そのおかげで「まんがミュージアム」の来場者は増え続け、海外からも膨大な数のファンがやってくるようになった。
アトムの存在に自分の決断を見つけたエリ。手塚モデルの未来都市設計が待ち遠しい。
手塚治虫を知って、世界の認識は変わった。アトムは人間の心をもったロボット。人間への理解を深め、新しい人類のありかたを提案している。手塚作品に描かれた世界の未来都市、新しい交通手段、ドローン技術。それに取り組む研究者やエンジニアが多く存在する。手塚氏が数十年前に描写した都市づくりがいろいろなところではじまろうとしている。
あれからどのくらいの年月がたっただろう。エリは幼いころから困難があるとアトムに願った。アトムに解決してほしい自分が、複雑な条件や環境を分析し、回答を得た。それはアトムが教えてくれた回答というよりも、アトムの存在を借りてエリが出した回答ーアトムを介して答えをみつけるエリの方法論だった。エリと同じでなくても、だれにでも何かのチャンスはある。そのときにどう考えて、どんな答えを出すかはその人の生き方だとエリは思うようになった。
エリは人類学、自然科学、歴史、未来社会、そして平和のありかたをアトムと手塚メソッドに学び、多くを理解するようになった。そして、近い将来、想像もしなかった時代が花開くのをだれよりも心待ちにしている。
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