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鉄腕アトムがエリに贈った人生 part 1

エリはいつもアトムと一緒だった。エリの大好きなアトムとは、まんがの神、手塚治虫さんの生んだ「鉄腕アトム」である。幼いころは商品のおまけのアトムのシールをぺたぺたと冷蔵庫や学習デスク、ノート、家具や郵便ポストまで、とにかくアトムがどこにもいる空間がエリにとって最高に安らげる場所だった。何かの都合でアトムのシールがはがされていると、不安になり、アトムに無事を願い祈ったものである。

テレビアニメで絶大な人気をほこった鉄腕アトムアストロボーイと名前を変えてアメリカをはじめ、世界各国で放映され、世界的に大流行した。エリは子供の頃、アトムが大好きで何か困ったことがあると心で祈る子だった。鉄腕アトムは人類を助けるためにどんな苦しいことにも挑むからだ。宿題を忘れたとき、学習発表に困ったとき、苦手な跳び箱を飛ぶ時も、無意識にアトムに祈っていた

瞬間にエリは子供の頃の家にタイムワープ


それから長い月日がすぎた春のある日、いつもどおり駅へと足早に歩くエリ。その日はふさぎ気味で、気分転換にいつもと違う道を行った。しばらく歩くと、突然目に入った家は…。その家には郵便ポストにぺたぺたと貼った鉄腕アトムのシール…。「それは子供の頃のわたしの家だ!」「そうそう、お菓子のおまけ…アトムのシール、いつもあちこちに貼って叱られた!」そう思った瞬間、エリは遠い昔のある出来事にタイムワープしていた。

鉄腕アトムの信仰までそっくり、おじさんはエリの未来の姿のようだった。

遠い親戚にまんがをこよなく愛す人物がいた。ことに鉄腕アトムを。だから子供の頃は〈アトムおじさん〉と呼んでいた。うちに来ると「エリちゃん、これどうぞ」とおじさんはに上機嫌で、いつもアトムのおもちゃ文房具のプレゼントをもらった。受け取って強く握りしめると、おじさんはエリのアトム愛をみてうれしそうだった。そう、アトムおじさんは、まるでエリの未来の姿のようだった。

おじさんの信念の結晶は「まんが図書館」と「まんが博物館」

おじさんがアトム好きが高じて、手塚治虫とアトムのコレクターになったのは、彼を知る人なら自然のなりゆきと思うだろう。手塚治虫作品のいい出物があると仕事を休み、遠方にでかけて買い付ける。給料はすべてアトムのコレクションにつぎ込む。コレクションの中心に陣取っている手塚治虫の作品は、鉄腕アトムである。施設「まんが図書館」は子供のための施設だ。近所の子供を招待して、無料で子供たちに鉄腕アトムのまんがを解放している。おじさんの持論は『ある年齢になるまでに、アトムを知ることが重要で、それが未来への知識と創造の種として育つ』その信念で鉄腕アトムの漫画グッズなどの収集に没頭していた。おじさんが特別と判断したものは、別の場所に開設した「まんが博物館」に展示。そちらも無料公開で営業していた。2か所のまんが施設を個人で経営するのは、労力も経済的にも大変だったと思う。その日もいつもどおり、叔父さんは遠方へまんがや関連グッズの買い付けに行った。その日の夜遅くに家に帰ったら時には、おじさんの奥さんは子供とともにいなくなっていた。

数週間後、エリが学校に行っている時間に、目を真っ赤にしたおじさんが家に来たそうだ。家の前には大きなトラックに積んだいっぱいの本棚にぎっしりつまったまんがの本が数千冊。「ご迷惑とわかっていますが、預かってください。このせいで家族を失った。だけどぼくにとっては生命なんです。とても手放すなんてできない。お願いします」と言い残して帰った。

鉄腕アトムを生んだ手塚治虫はエリの守護神

エリは「まんが図書館」にあった鉄腕アトムやその他の手塚治虫の漫画が、たくさん家に来て大興奮だった。母は嫌がっていたけど、「鉄腕アトム」がずらり揃っているのを見てエリは狂喜した。鉄腕アトムの雑誌は、エリのバイブルなのだ。雑誌の裏面には明治製菓のマーブルチョコの広告。幼稚園くらいの少女がびっくり顔でチョコレートを持っている広告だ。ちょうどやってきた隣りの息子、大学生のお兄ちゃんは「あっ、この子、知ってる。あのころ、子役で人気だった上原ゆかりだよ!」と一冊ほしそうな顔をする。厳格な母は「預かりものなので、ここで読むならいいけど、持って帰るのは禁止」と厳しいお言葉。そんないきさつで、アトムおじさんのまんがわが家に同居することになった。「アトム、うちに来てくれてありがとう。手塚治虫さん、アトムを生んでくれた偉大な先生。あなたはわたしの守護神です」とエリは毎晩祈っていた。アトムがいるから、エリは安心して学校に行き、友達にも恵まれ、何不自由ない思春期を過ごすことができた。

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〖付録〗アトムの生きた時代
1951年4月から1952年3月に連載された『アトム大使』の登場人物、アトムを主人公に1952年4月から1968年3月にかけて雑誌「少年」(光文社)で連載。それが鉄腕アトムのデビューである。21世紀の未来を舞台に電子力(後に核融合)をエネルギー源として動き、人と同等の感情を持った少年ロボット・アトムが活躍する物語。米題は『ASTRO BOY(アストロ・ボーイ)』。1981年には関連書籍の発行部数が累計1億部を突破した。
※参照文献:wikipedia

鉄腕アトムは大スターだった、わたしたちはアトムを通じてすばらしい未来社会を体験することができた。手塚治虫自身、戦争を経験し、国民の思いを反映したテーマの作品をいくつも残している。

鉄腕アトム OP
投稿者:HamaFM
作詞:谷川俊太郎
作曲:高井達雄 
   昭和38年発売。


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