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夫を亡くしたらネイルサロンに行けなくなった話
私は爪が弱くて割れやすいこともあり、いつもネイルサロンに通ってジェルネイルをしていた。
ぷっくりと分厚いジェルをのせて固めておけば、爪が裂けたり割れたりすることを防ぐことができた。
手元がいつもキレイだと気分も上がるし、ネイルサロンに行くとセルフケアをしている気分になるし、私はネイルが大好きだった。
それなのに。
夫を亡くしてから、ネイルサロンに行けなくなった。
ネイルをすると夫を思い出すから、とかそういうことではない。
もちろん、ネイルを新しくしても夫が褒めてくれないと思うと寂しくて仕方がないけれど。
行けなくなった理由は、ネイルサロンでの雑談が苦痛になってしまったから。
ネイリストの方が悪いわけではない。
でも、サロンでの雑談は主婦の場合、家庭について話されることが多い。
私は人に夫が亡くなったことを話すことも、夫が生きているていで話すことも、できればしたくない。
今まで通っていたサロンの人は私の家族構成を知っているから、
次の長期休みは家族旅行ですか?とか
旦那さんはお休み取れますか?とか
そういう話題になってしまう。
かと言って、新しいサロンに行くと旦那さんは外国の方ですか?と聞かれる可能性がすごく高い。
それは私の名前が、ダーシー智子(仮)のような感じだから。
そこから、どこで出会ったとか家では何語で会話してるとかそういう話の流れになることが本当に多い。
本当に、ネイリストさんのせいではない。
カタカナの名字の人が来たら、そこから話を広げるのがいちばん簡単だと思うし、30代の私を見て、まさか夫と死に別れてるかもしれないなんて想像するはずもない。
私はまだ他人と夫の話ができるほど強くないし、辛い会話を我慢してまでネイルをする必要もない。
だからもうサロンに行くのはやめた。
爪が割れても仕方ない。
名字を旧姓に戻せば、そんなこと聞かれずに済むのでは?と思われるかもしれない。
でも、私は絶対に名前を変えることはしたくない。
この名字は、私と夫が家族になった証だから。
私と夫と娘が3人家族だった証拠だから。
私は絶対に変えない。
不便でも、辛い思いをしても、絶対に名前を変えない。
夫婦別姓なんて私は絶対嫌だ。
結婚して夫と同じ名字になれたとき、私は本当に幸せだった。
この人と家族になれたんだと思った。
これからも私は夫がくれたこの名字を大切にして生きていく。
たとえサロンに行けなくて、爪が割れたとしても。