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『恋とか愛とかやさしさなら』



プロポーズしてくれた翌日、恋人が盗撮で捕まった_____あなたはどうしますか?

一穂ミチさんの新刊発売ニュースに心躍る。
タイトルも素敵。涙でそうになる。やさしさなら、の【なら】がついてくるあたり。このニュアンス。すでに心掴まれている。

と同時に、物語紹介文にざわつく。
あれわたしこれ知ってるやつだとざわつく。

どこで見たの。ネットだっけ?初版限定の冊子? 選択肢を広げつつもこれだろうと思うものに、手を伸ばす。


いたいた。


STORY BOX に掲載されていたものだ。

『 Put your camera down 』
男と女のブラックボックス



けっこうぐらついて揺さぶられてすごかった作品。やっぱり一穂ミチさんってすごいなぁと唸っていた。


自分だけの一瞬を探すより、「ニカ」と呼ぶ時、「ニ」の形に開く唇や、二の腕の日焼けの境目を見つめていたかった。それらは新夏を落胆させなかったから。新夏が特別な世界を切り取れなくても、啓久ひらくが新夏を特別にしてくれたから。啓久が新夏のフレームから永遠にいなくなるなんて、考えられなかった。

どうしてだろう。愛には打算や疑いがひそんでいて当然で、そうじゃない愛は時に愚かだ幼稚だと批判される。なのに「信じる」という行為はひたすらに純度を求められる。一点の傷や汚れも許されないレンズのように澄みきっていなければ、信じていることにならない。百かゼロしか存在しない。

ねえ、とやさしく問いかけられる。
「どうしてあなたは、被害者みたいな顔をしているの?」

言葉が出なかった。啓久の目、ふたつのレンズが潤み、涙に濡れるのを新夏はなすすべもなく立ち尽くして見ていた。信じてはいけない、男の涙。でも信じきれないものほど、それゆえにいとおしいのだと、手の届く距離で指一本触れずに思った。


新夏のお父さんのエピソードを挟んでエンディングを迎える辺りといい、ほんとすごいと思ってた。
まぎれもなくshort storyのはずなのに、ぎゅっとぎゅっと詰まっていて、いろんな感情が押し寄せてきてお腹いっぱいになっちゃう感じ。読了後の放心状態がいつも物語っている。
自分のなかで響く言葉が多くて、残像のように引きずる感情たちであふれてしまうから。
だから一穂ミチさんを追いかけてしまうのだろうなあ。

言葉を追っていくと
どうしようもなく泣きたくなるきもちになったり、思いもよらぬところでグサっと傷つけられたり。激しい共感もあれば繊細な眼差しに...と、とにかく感情の振り幅に魅力されつづけている。
だから追いかけてしまうのだ。


そして、なにより。

そう。
一穂先生の繊細さ、
具に人間を観察されてきた、その目が好き。

心の機微を描くのが " 上手い "
という表現では物足りなさを感じてしまうほど、ただただすごい才能の塊の作家さんだと思う。


わたしのファインダー越しに映る一穂ミチさんの姿。お顔も拝見したわけではないけれど、物語をとおして、活字をとおして浮かび上がる一穂ミチさんの才能の光り方、そしていろいろなものを丁寧に見つめてきたやさしさが宿るその目をすきになりました。


なんと、この作品の続編が
「恋とか愛とかやさしさなら」でした!

そうか、そうだったのかー。たのしみ。
10/30発売。まちきれない!!

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