ない雨と、ないカフェと、ないコーヒー
昨日は雨の日だった。
私は雨の日が好きだ。
雨の音が聴けるから。
ぽつぽつ、しとしと、ざあざあ。
外に出る。
傘に雨が当たる、ざわざわした音。
水が落ちて、物に当たり、音を鳴らす。
その音を聴く時間が好きだ。
それは打楽器のように。
張った布に、叩くように落ちてくる、雨粒。
オノマトペにし難い音。
その音を聴きながら歩くのは幸せだった。
私にとって昨日は絶好の外出日和だった。
とはいえ、特に行くあてもなく、近所のカフェに寄った。
雨の日だからか、結構空いていた。
そこは2年前にできたチェーン店だ。
木を基調とした作りで、ほのかに木の匂いがする。照明は暗めで、落ち着いた雰囲気だ。
私はホットコーヒーを頼んだ。
店内では基本ジャズが流れている。
この間訪れた際にはAhmad Jamal TrioのDolphin Danceが流れていて、好きな曲なので嬉しかった。
昨日はは知らないバージョンのHow Deep Is The Oceanが流れていた。誰のカバーなのか気になった。ピアノだった。
スーパーでも、本屋でも、そういうことはしょっちゅうある。多くの店はジャズを流すが、多くの人は誰が演奏しているのか、なんという曲名かなんてことは意識しない。
一か八か、店員さんに聞いてみた。
「あの、このBGMは誰が演奏してるのかわかりますか?」
「少々お待ちください」
店員さんは店の奥へと向かった。
「申し訳ありません。わかりませんでした」
そうだよなあ、と思った。
チェーン店なのに悪いことをした、と反省した。
申し訳なくなって、コーヒーをもう一杯頼んだ。
これも果たして正しかったのだろうか。
店の売り上げにはなるが、この店員さんがただのバイトであった場合、ただ仕事を増やしただけだ。
この社会、何が善か、何が悪か、
ぼんやりと考えながら、コーヒーフレッシュを注いで、混ざり合う様を見ていた。
雨の中のジャズ。
音により落ち着く心と、カフェインにより昂る身体。
それらが良い塩梅で心地よかった。
という日が訪れたことは、ありません。
グァ グァー グ