Back to the world_001/ファイヤーバード
地上何メートルか上ーー。
サイドブレーキが甘かったのか、首都高速の停止エリアから金色のファイヤーバードが滑るように動き始めた。登坂車線を行くぬらりとした動きは無人のせいであろう、独特な無意思の揺れがあったーーにもかかわらずスピードに乗ったトラックや軽自動車は、状況に気付かずに脇を走り抜けて行く。高速道路脇の非常電話を使っていたファイヤーバードの運転手ーーパーマヘアの男がやっと異変に気づいた。受話器から手を離して慌てて走り出す。
次々走って来る後続車のスピードにまごついているうちに、無人のファイヤーバードはぬらぬらと坂を下って行く。パーマヘアの男がスピードを上げて走り車体の横まで追いついたが、なかなかドアに手をかける事ができなかった。バシバシと車の腹を叩く様は呑気な並走にすら見えたので、一瞥して通り過ぎた車さえいた。
時に人の認識というものはおかしくなってしまうことがある。あるいは急な出来事に理解が追いつかぬうち、なんとかなるだろうと希望的観測をしたのかもしれない。とにかく運の悪いことに、何台かの車がこの状況を見過ごして走り去ってしまった。
男はようやっとファイヤーバードのドアを開け、サイドブレーキに手を伸ばして車を止める事ができた。外壁で擦ったボディを見て大きくため息をついた後、後続車の存在にはっと気づく。
素早く後方に目をやると、30mほど後ろに事情を察した軽トラックがハザードランプを点滅させて徐行していた。男はホッとした顔で微笑むと、軽トラックに会釈して手を挙げた。運転席のランニングシャツを着た坊主頭の男は、若いくせに気の良い親父のような風情があった。パーマヘアの男はアロハシャツの胸ポケットを弄ってタバコを取り出すと、大きく安堵のため息をついた。■
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とにかくやらないので、何でもいいから雑多に積んで行こうじゃないかと決めました。天赦日に。