助手席で怒る妻
僕の妻は運転免許を持っていないので、車で出かける時の運転は全て僕が担当する。
そんな僕からしたら、誰かの運転している車の助手席に乗っている時は、楽過ぎてすっかりくつろいでしまい道路状況なんてまず見ることがない。
妻も同様に、僕が運転している時に道路の状況を特に気にすることなくスマホをいじったりしている。
運転をしていると人間はとかく自分勝手になるもので、自分のことを棚に上げて他者を非難しがちである。
僕も若かりし頃は、ノロノロと走っている車や赤信号で突然渡る自転車や歩行者にイライラしていたものだ。
いい歳になった最近ではあまりイライラしなくなったが、それでも危険な時にはイライラしてしまう時がある。
不思議なことに、女性や子どもにはイライラしないがオッサンにはイライラしてしまう。
生理的な反応なのか、止めようがない。
自分も他から見たらそこそこオッサンなのにだ。
妻も同様で、偉そうなオッサンが大嫌いだ。
僕が言うオッサンとは、だいたい60歳以上の偉そうな男性を指す。
妻が思うオッサンはそれより幅広く、50歳以上を指しているように思う。
僕と妻が現在住んでいる地域は比較的高齢者が多く、一緒に出かけるとほぼ確実に「オッサン」に出くわす。
オッサンは歩道の無い細い道の真ん中を堂々と闊歩していて、車が後ろから迫っていても、
端に寄らない
もしくはドライバーを睨みつけながらゆっくり端に寄る
このどちらかだ。
うちは大通りに出るまではどうしても細い道を経由する必要がある。
だから僕は細い道を走行するたびにちょっとイライラしたりする。
そんな時、僕はいつも妻をチラッと見る。
すると先程までスマホをいじっていたはずの妻だが、気付けばオッサンをしっかりと見ているではないか。
スマホにオッサンレーダーでも搭載しているのだろうか。
そしてオッサンを見る妻の表情というと、それはまるで般若の形相なのである。
来るぞ来るぞ〜
はい来た!
妻「端っこ寄れよ車気付いてないのか神経通ってないんじゃないのマジイライラするわ〜!」
僕「おっ、今日も声出てますねw」
こういう時は、本来ドライバーがイライラをぶつけたいところである。
しかし横でワードセンスのカケラも無く怒り狂っている人間を見るとなぜか刃を削がれ、逆に諫めようとするから不思議だ。
こんな感じの恒例行事なので、ドライバーの僕としてはいつも不完全燃焼なのだ。
たまにはスッキリしたい。
しかし同時に思うのは、「人が怒っている姿はやっぱり醜いもんだな」ということだ。
"人の振り見て我が振り直せ"
妻の怒りによって、僕が怒り姿を見せることは無くなる。
もしかしたら妻は僕が怒る姿を見たくないから、あえて自分がそうしてるのかもしれない。
そう思ったら般若も仏に見えてくる。
般若心経がどんなものは知らないが、きっとそんな仏像もあるに違いない。
なんと美しい自己犠牲。
やっぱり僕の妻って最高じゃない?