見出し画像

ゲー選かけ流し(追憶編) vol.4 『世界樹の迷宮』

ゲームの選評を気の向くままにチビチビとかけ流す、ぬるま湯スペース。
今回はリマスター版を遊び終えた『世界樹の迷宮』。
DS時代に3DダンジョンRPGブームの火付け役となった本作の魅力についてまとめていく。
(※なお、スクリーンショットはリマスター版とさせて頂く。悪しからず)

<筆者の『世界樹の迷宮』シリーズプレイ実績>
・『世界樹の迷宮』シリーズは全作クリア
・『世界樹の迷宮III』以外は裏エンディングまで到達
・『新世界樹の迷宮』は2作ともクリア(裏エンディングまで)
・『不思議のダンジョン』等の派生作品は未プレイ
・Switch版(HD REMASTER)はピクニックでクリア

古臭くて新しい、手書きで地図をつくる3DダンジョンRPG

本作は『ペルソナ』シリーズなど歯ごたえのあるRPGに定評のあったアトラスが新規IPとして生み出した3DダンジョンRPGである。

日向悠二氏のカッコかわいいキャラクター達、古代祐三氏のノスタルジックと新しさが同居する曲群、そして何よりもニンテンドーDSに特化した仕様は、当時から話題性があった。

シリーズを重ねるごとに日向氏デザインの
キャラクターの愛らしさが増していくのも見どころ。

一番の特徴は、DSのタッチパネルを利用し、3Dダンジョンのマップをプレイヤー自身が描くという仕様。ある種先祖返りしたシステムが逆に新鮮で、筆者もこれまでにない体験として大いに楽しませてもらった。

アイコン配置や床の色分け等はプレイヤーの自由。
自分だけのマップができるという寸法。

2000年代、『世界樹の迷宮』が登場するまではマップが自動で埋まるダンジョンRPGは珍しくなくなり、ジャンルとしても閉塞感が出ていた頃だった。ハードで言えばプレイステーション2、3や、ソフトで言えば『FINAL FANTASY』シリーズなど、映像美と演出美が光るRPGが市場を牽引していた時代である。

そんな中、ダンジョンRPG黎明期のように方眼紙に手書きのダンジョンマップを作成していた時代を追体験するかのような本作の仕様は尖っていた。明らかに時代から逆行している仕様だったにも関わらず、コアな3DダンジョンRPGファンからも好意的に受け入れられていたと記憶している。

初プレイ・初全滅時の衝撃

上で挙げた通り、本作はDSを代表する名作RPGの一つであるが、キャラクターの可愛らしい造形とは裏腹に、シリーズ初心者を阿鼻叫喚の渦に叩き込む高難易度ゲーである。筆者が本作を初めてプレイした時、最初に全滅したのは「1F」。文字通り最初のフロアだ。

いくらなんでも1Fから全滅なんて、まさか~ぁ。
そのまさかだ……!

迷宮内の様々なポイントで起きるイベントのうち、罠イベントにハマってしまったためではあるのだが、1Fのイベントで遭遇した「毒アゲハ」は今でも忘れられない。

毒アゲハの毒を喰らったターン終了後、駆け出しのパーティ達が即死級の毒ダメージを受け、一瞬で後衛が壊滅。逃げる事もかなわず次のターンで前衛も毒でやられ、パーティは迷宮の土になった。

「………は?」とリアルに声が出た戦闘。
いや、ココ1Fだぞ、1F。

筆者のゲーム歴もかなりの年月になっていると自負しているが、そのゲーム史の中でも三指に入るくらいの衝撃だった。
違う! ……今まで遊んできたゲームと、全く違う!!」
と心の中で叫んだほどに、である。この記憶は恐らく一生消える事はあるまい。

セーブポイントからやり直し、気を引き締め直した筆者。
それをあざ笑うかのように、フロアを進むごとに新たなモンスターが現れ、手を変え品を変えパーティを蹂躙していく。恐らく平均すれば1フロア当たり1回以上は全滅していたであろう。でも、やめられない。

そろそろ慣れてきたかな?という冒険者たちの心を
ボキボキとへし折ってくる強敵・ボス敵たち。

「何だ、何なんだこのゲームは!?」
そんな感覚に支配されながら、それでも迷宮の深部へと進む筆者とその分身たち。それは高難易度のストレスよりも未知の体験に対する好奇心が遥かに勝っていた事が理由だった。その後、数えきれないほどの試行錯誤と長時間の悪戦苦闘を経て、挫折する事なくクリアまで漕ぎつけた。
本作を自力でクリアした達成感も、筆者のゲーム史に残る記憶である。

なお、クリア後もゲームは続く。このクリア後の階層がまた輪をかけてヒドいのだが、長くなるのでここでは置いておこう。
(ネットの攻略情報を解禁したのもクリア後である。攻略情報を見た瞬間「分かるかこんなモン!」となったのも今では良い思い出。)

27Fのギミックはホントにヒドい。
ネットの情報を解禁するきっかけとなったフロア。

才能も血統も関係ない、全ての人に贈るサクセスストーリー

筆者が『世界樹の迷宮』シリーズで一番好きなポイントの一つとして、
キャラクター(=プレイヤーの分身)が何者でもない
という点がある。

ゲーム冒頭でプレイヤーはギルドに赴きメンバーを登録。登録したメンバーからパーティを編成、迷宮の探索を開始する……という流れなのだが、登録された冒険者たちは至って普通の人間である。

ギルドメンバー登録画面。職業と見た目以外、
パーソナリティについては何一つ語られる事はない。

漫画の話になるが、日本で一番ポピュラーな漫画雑誌「週刊少年ジャンプ」の代名詞といえば「友情・努力・勝利」である。一方、同誌の人気作品の主人公達を紐解いてみると、元々の出自が特別であったり、両親が大人物で、優秀な親の血を引いている場合が多い。筆者の目には、多くの少年漫画は「才能・血統・勝利」に見えてしまう。

現実世界は、才能に恵まれた人がそれに溺れず努力を重ねた結果、世界を動かしている。それがリアルな実情である事は否定できないが、ゲームにおいても「世界を救う」「偉業を成し遂げる」には、主人公が特別な存在でなければならない、……というゲームばかりではあまりにも夢がない。

才能に恵まれない人ほど「ギフテッド」に憧れるし、持たざる者である自分自身をふと省みると、理想と現実のギャップに打ちのめされてしまう事だろう。

『世界樹の迷宮』のキャラクターに才能・血統の描写は一切ない。ただ冒険者としての好奇心だけを携え、誰も成し遂げていない迷宮の踏破に挑まんとする意思を持った冒険者たちの物語である。

プレイヤーの分身は勇者ではなく、
名のある生まれでもない。
数あるギルドの一つ、そのメンバー達に過ぎない。

そんな彼らが迷宮を冒険し、時に傷つきながらも少しずつ探索の範囲を広げていくと、拠点「エトリア」の住人達も徐々にギルドへ信頼を寄せていく。劇的で衝撃的なストーリー展開は何もない。ただただゆっくりと、しかし地道に、着実にギルドの名声が上がっていくプロセスを見る事ができる。

いくつもの階層を越え、いくつものクエストを
達成する事で勝ち取る信頼。これをしっかりと描く
ゲームは思いのほか少ない。

本作は鍛錬と努力と創意工夫を惜しまない者が分け隔てなく成果を上げ、賞賛されるサクセスストーリーである。この事が、プレイヤーにとってどれだけ勇気を与えてくれる事だろう!
筆者が『世界樹の迷宮』をこよなく愛する理由はここに集約されている。

おわりに

『世界樹の迷宮』は、その独創性から新規/固定ファンの獲得に成功し、シリーズ作や派生作品にも恵まれた。『剣と魔法と学園モノ。』『エルミナージュ』シリーズなど、本作のフォロワーと思われる作品も次々とリリースされ、3DダンジョンRPGというジャンルが活気づく礎となった。
その意味で本作は紛れもなく、3DダンジョンRPG史に残る名作と言える。

難易度こそ猛烈にシビアではあるものの、しっかりとレベリングして戦略を立てればクリアできる絶妙なバランスで成り立っている稀有なゲームである。

一見でたらめな強さを誇るボスも、
しっかりと対策を練れば太刀打ちできる調整は見事。

シリーズを重ねる毎に自動マッピング機能などが追加され、当初売りになっていた手書きでのマッピング機能の新規性は薄れてしまったが、ゲームとしての自由度は着実に向上している。

3DダンジョンRPGの経験あるなしを問わず、本作・シリーズ作品を強くオススメする。エトリアの人々の羨望と信頼を背にし、世界樹の迷宮の謎を解かんと歩を進める冒険者としてのカタルシスを存分に味わう事ができるハズだ。

本作を一言で表すとすれば、
ノスタルジックをニュースタンダードに転生させた3DダンジョンRPGの傑作
である。


今回の選評は以上。

世界樹の迷宮シリーズの魅力を優先的に説明するため、ゲームシステムに関わる要素の紹介は控え、筆者の主観を全開にして記事を書かせて頂いた。システムを含めた選評はシリーズ作品(世界樹IIかな?)の選評を書く時に改めて。
次回もよろしくお願いします。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?