島のほとりで心臓を
心臓の音を聞いたことはあるだろうか。
どんな人にも心臓はついているが、自分の心臓の音を聞くことは難しい。緊張した時に、微かにその鼓動を感じられるくらいだ。
しかし、僕らは、他人の心臓の音を聞くことはできる。
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香川県にある、豊島を旅した時のこと。
豊島は、直島と並んで、アートで有名な島だ。
僕は自転車に乗って、島に散りばめられたアートを巡った。
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島は、そこまで大きいわけではなかったけれど、自転車で巡るとなるとなかなかの距離になった。
いくつものリングが付いたバスケットゴール。不思議な造りの美術館。
そんなアートを鑑賞しながら、島の端から端まで駆け巡った。
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その小さな建物は、島のほとりに立っていた。
黒くてスタイリッシュな外観は、一見するとカフェのようにオシャレだった。
その時だ。
島のどこからか、微かな音が聞こえてくるのを感じた。
ドッドッドッドッ。
なんだろう、と思う。もう少し耳を澄ます。
ドッドッドッドッ。
しばらくして、その奇妙な音は建物から出ているのだ、と気がついた。
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「心臓音のアーカイブ」。
それがこの建物の名前だった。
そこでは、多くの人の「心臓の音」が保管されていた。
「心臓の音」を、アートにしてしまったのだ。
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中には、真っ暗な部屋があった。
入ると、一定のリズムで、心臓の音が鳴り響いていた。
ドッドッドッドッ。
島のほとりで、その小さな部屋の中で、名前も知らない誰かの心臓の音を聞いていた。
それは、まるでライブ会場で鳴り響く重低音のビートのように、僕の全身に伝わってきた。
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しばらくして、建物を出た。
自分の命は、もしかしたら誰かの命と同じなのかもしれない。
そんな、不思議な感覚を覚えた。
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