「解雇」は自由に行えるの?(その3)~キャリコンに必要な法知識(職業理解、環境変化の分析把握)~
(続き)
8.解雇権濫用法理の基本的な枠組み
ではその解雇権濫用法理(労契法16条)とは、どのようなものでしょうか。要は「(客観的)合理性」ならびに「(社会的)相当性」の二つの要件を満たさない解雇は、使用者の権利濫用として無効になる、というものです(注④)。すなわち、まず第一段階として解雇に「客観的合理的」理由があるか否かが問われます。解雇にきちんとした理由があるかどうか、ということです。次に、たとえ解雇に合理的配慮があっても、解雇することが「社会通念上認められるのか」が問われています。それゆえ解雇は厳しすぎるのでは、という場合には相当性はないということになります。たとえば、同僚の独身女子社員の自宅に夜10時頃に電話をしたことを理由とする(鉄道フード事件)や自転車事故の処理に関して被害者が会社にやってきたこと(昭和電極事件)
引っ越しに際して社宅でもたれた酒席でのけんかを理由とする(東部生コンクリート事件)等を理由とする解雇は無効とされました。それはそうですよね。
9.裁判所
しかも、この「正当性」につき、裁判所も厳格に判断する傾向があります。すなわち、たしかに労働者には就業規則に違反する行為があった。しかしいきなり解雇は穏当ではない(最後の手段だから)。それゆえ使用者には、まず当該労働者に対する指導や研修等を促す努力を求め、そのうえで労働者に改善への可能性がない(見込みがない)という事情があってようやく容認するというものです。したがって、重大な非違行為ではなかったときには、使用者もいきなり労働者への解雇に短絡せず、まずは指導に努め、そのうえで「譴責」や「出勤停止」といった懲戒処分で代替することが肝要です。もちろんその場合、過去に同じような行為をして懲戒された労働者(先例)との公平(衡平)にも配慮する必要があります。労働者側に有利な諸事情を考慮するわけです。
10.付言
こうした解雇規制が行われる背景には、当時の日本に長期雇用慣行があり、また中途採用や転職といった外部労働市場の未成熟がありました。したがって、転職がより可能な状況になると、また潮目が変わるとの可能性があります。まして現在でも、高い能力を前提にした高いポストや厚待遇での中途採用の場合には、それが長期雇用を前提としないものだけに、この「相当性」判断につき裁判所が比較的柔軟に解するとの可能性があります(注⑤)。
※注④ この二要件を満たす具体的な解雇理由の存在につき、使用者が主張立証責任を負うことになります。
※注⑤ 高い能力を有していることを想定し、高い地位に特定して採用した場合、他の職種への配転をするまでもなく、その高い地位に要求された業務が履行できるかといった基準で検討すればよい、と判断←中途入社で即戦力(日本的雇用システムとは関係なし)『フォード自動車事件(東京高裁 S59.3.30)』
プロフィール
(オイカワ ショウヨウ)
『地域連携プラットフォーム』に勤務の傍ら、某大学の研究所に所属。
複数の国家資格を有し、また『府省共通研究開発管理システム(e-Rad)』に登録され、研究者番号を有する研究者でもある。