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 『検定とは、何か』(その2)    ーキャリアコンサルティング技能士検定の場合―(私見)


(続き)

『横浜DeNAベイスターズ』の南場智子オーナーをみると、ロジャーズ(Rogers,C.R.)の「無条件の肯定的配慮」や「共感的理解」を備えておいでになると感じられます。それは生来的なものなのか、あるいは日常生活の中でコミュニケーションスキルを培われたのかは分かりません。しかし、あのような方がCCならば、相談する私は心地よさや温かさ、信頼といったものを感じるのではないかと思われるのです。プロ野球のオーナーにしておくのは、もったいない方ですね(笑)
さて、前回の続きです。

5.技能検定集中強化プロジェクト


『「日本再興戦略」改訂2014』に、「女性等が働きやすく、意欲等のある若者が将来に希望がもてる環境整備を図ることにより、労働力人口の維持、生産性向上を図ることが、日本が成長を持続できるかの鍵とされ、関連する施策が盛り込まれ」ました。 政府は「今後、これらの施策を推進。 女性等が働きやすく、また、意欲と能力のある若者が将来に希望が持てるような環境を作ることで、労働力人口 を維持し、また、生産性を上げていけるか否かが日本が成長を持続していけるかどうかの鍵を握る対策の考え方」だと述べています。周知のように、これは『産業競争力会議』において、国際競争力の強化や生産性の向上を求めたものと同様の狙いを有するものだといえます。

そこでは、 雇用制度改革・人材力の強化として、外部労働市場の活性化による失業なき労働移動の実現のために、業界共通の「ものさし」としての職業能力評価制度の構築等(第3の1)※―産業界のニーズに合った職業訓練のベストミックスの推進(第 3の2)ー個人主導のキャリア形成の支援 (第3の3)等を例示していることが目に付きます。当然そこには、CC国家資格やCC技能士の活用も視野に入っているはずです。また、個人主導のキャリア形成支援 には、「キャリア・コンサルティングや見直し後のジョブカードを活用したキャリア形成の仕組みを導入・実施した事業主等に対する助成制度の創設」も盛り込まれております。

※社会的に通用する能力は一般に、一般的能力と企業特殊的能力とに分類できます。前者が業界共通の標準化された「ものさし」に該当します。しかし、後者も重要です。それは長期雇用制のもとで修得されるものであり、使用者としても、そうした知的熟練者を一定数必要としているものと思われるからです。『自動車総連』の方によれば、実際に『トヨタ』と『日産』とでは、同じ製造工であっても互いに技能の汎用性は低いそうです。その意味では、企業特殊的能力獲得には、一企業内でのキャリア内部形成が有利です。標準を超える個別事案に対応できる可能性が高いからです。

また、そうであるからこそ、「三位一体労働市場改革」の指針について議論された昨年5月16日の『新しい資本主義実現会議』での岸田(前首相)発言に結実したものと思われるのです。それは、リスキリングによる能力向上支援ならびに労働移動の円滑化に関わるものでした。岸田氏はそこで、「求職・求人に関して官民が有する基礎的情報を集約、共有して、CCが、情報に基づき、個人のキャリアアップや転職の相談に応じられる体制を、整備いたします」と述べたのです。それ以降、政府の各施策の中で、たしかに「キャリアコンサルタント」という文言が目に付くようになりました。経済産業省が行う補助事業者を通じての「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」でも、在職者のキャリア相談にはCCが担当するものとされています。※

※弊法人も、同じく国の補助事業者として採択され、当該事業に参画しております。国にも、労働市場の流動化に備えたより積極的な転職等雇用の受け皿作りを求めたいところです。

6.資格者の質の向上、CCの場合、カウンセラーからコンサルタントへ


ところで前回、私は司法試験受験に関わるその受験者数の今昔に触れました。その大きな契機となったのが2001 年 6 月に、司法制度改革の集大成として取りまとめられた『司法制度改革審議会意見書』でした。そこでは「21世紀の司法の在り方」として、次のように述べられています。「第一に、『国民の期待に応える司法制度』とするため、司法制度をより利用 しやすく、分かりやすく、頼りがいのあるものとする。 第二に、『司法制度を支える法曹の在り方』を改革し、質量ともに豊かなプ ロフェッションとしての法曹を確保する。 第三に、『国民的基盤の確立』のために、国民が訴訟手続に参加する制度の導入等により司法に対する国民の信頼を高める」としていました。

このうち、第一と第二は、われわれCCの世界にも通じるものがあると思われませんか。そのために国が考えることが、資格者の「質の向上」です。※それは法曹三者(裁判官、検察官、弁護士)のみならず、司法書士や社会保険労務士ならびに行政書士および宅地建物取引主任者(現・宅建士)等にも求められたものでした。もちろん、資格取得にも効用があります。それまでの実務経験を体系的に整理できるものだからです。その意味では、各人の仕事の延長線上にある資格をまず取得することが早期合格のためにも、またそれを役立てるためにも望ましいのではないでしょうか。

※もっとも、どのような方向性での「質」であるのかは、冷静に判断する必要があります。CCの分野では、カウンセラーからコンサルタントへ重点が移りつつあるというものが、私の見立てです。

ところで、CCの分野では、国家資格者への更新講習について、とくに国が問題意識を強く有しているように見受けられます。専門職としてのCCに、より高い専門知識の修得を求めるというものです。技能講習でも今後、一定科目の必修化等の改定もあり得ます。また、われわれ養成(更新)講習実施機関もその例外ではありません。養成講習認定や更新講習指定につき期限を付し、他の許認可業種の如く更新制に改めていくのではないかと予想されます。それにより数年ごとに審査を行い、不適格な実施機関の淘汰を図るというものです。その際には、人的要件も加重され、組織内に一定の知見や資格、経験を有する者の常駐・専任※が必須とされるのではないでしょうか。当然、講師就任・在職の資格要件もより高いものが要求されるはずです。

※そのほかに、労働者派遣業における派遣元責任者等人材ビジネスの分野でも、従来の指定講習受講に加えて将来、CC資格を必須化するとの流れになるものと思われます。

7.職業能力開発促進法、CCへの期待、「企業は人なり」はいったい、どこへ


他方、「職業能力開発促進法」第11条、第12条において、事業主は、雇用する労働者の職業能力の 開発・向上が段階的かつ体系的に行われることを促進するため「事業内職業能力開発計画」 を作成し、その実施に関する業務を行う「職業能力開発推進者」を選任するよう「努める」ことと規定されています。

そこでまず、その選任を「義務化」し、その就任要件としてCC資格を必須とすべきでしょう。それは、内部的には在職労働者にゆとりと豊かさを実現させ、キャリア的に安全で働き甲斐のある職場環境を確保することになります。外部的には「良き企業市民(good corporate citizenship)」として、使用者の社会的責任の一端を履行することにもなるはずです。

その意味ではフリードマン(M.Friedman)ならびにこの国の新古典派経済学者のいう市場原理主義は失当です。彼らは、企業は出資者(株主)だけのものであると唱え、企業の利潤最大化行動が社会全体の利益になると主張するものだからです。しかし、それが社会的納得性を有するでしょうか。それは、企業とはそこに長期間コミットし、長時間就労する人々のものであるとの「人本主義・従業員主権モデル」と背離します。

しかも、こうした「日本型経営システム」が、この国の企業システムの土台を支えてきたものだと思わるのです。そうした長所を顧みず、文化も伝統も異なる米国流モデルを機械的単純に日本企業に導入しようとするが如き風潮に、強い違和を覚えます。「企業は人なり」はいったい、どこに行ってしまったのでしょうか。CCには、コンフリクトを低減するための職場環境作りによって、その悪しき流れに対する現場での歯止め役が期待されます。

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著者プロフィール

オイカワ ショウヨウ
横浜市生まれ。複数の国家資格を有し、『一般社団法人地域連携プラットフォーム』に在籍する傍ら『法政大学ボアソナード記念現代法研究所』研究員を務める。 『府省共通研究開発管理システム(e-Rad)』に登録され、研究者番号を有する研究者でもある。横浜DeNAベイスターズをこよなく愛する。