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「解雇」は自由に行えるの?(その1)~キャリコンに必要な法知識(職業理解、環境変化の分析把握)~

1.あるとき

ある中小企業経営者が先日、労働者について「『解雇予告手当』さえ支払えば、すぐに辞めてもらうことができるのだから」と話すのを耳にしました。驚きました。労働に関わる分野に知見がある(と世間から思われている)その方に対して、その程度の認識であったからです。とんでもない誤解です。何のために憲法が生存権を保障したとお考えなのでしょうか。ただでさえ、経済的弱者たる労働者は、使用者の主張する労働条件を受け入れざるを得ないとの立場にあるというのに。したがって、事柄の性質上、今回は長くなります。しかし、大切な問題ゆえ、ご辛抱のうえお付き合い願います。

2.労働契約の終了事由

そこで、まず労働契約の終了事由につき概観しておきましょう。一般に「辞職」「合意解約」「定年」「契約期間満了」「解雇」の五種類があるといわれております。それらのうち、最も重要なのが「解雇(馘首)」です。その根拠規定たる民法627条によれば、雇用契約の当事者(使用者・労働者)はいつでも2週間前に予告すれば労働契約を一方的に解約することができます。とくに、労働契約期間が無期な労働者(正社員)による一方的な意思による労働契約の解除(辞職)には、ほとんど法規制はありません。正社員のみなさん、安心してください。

3.使用者による労働契約の解除(解雇の自由)

同様に、民法によれば使用者もまたいつでも2週間前に予告すれば、一方的に労働契約を終了させることができるはずです(解雇)。しかしながら、それがみだりに行使された場合、立場の弱い労働者側に大きな問題が生じかねません。深刻な生活破壊を招くことにもなるでしょう。労働者の多くにとり、この資本主義社会において販売すべき「商品」は、自己の労働力しかないからです(※注①)。そこで、労働者保護の立場から、労働基準法(労基法)や労働契約法(労契法)が上から基準(規制)を設けて守らせるとの形で、それらに介入することになります。

4.解雇予告義務(解雇手続の規制)

そのうち有名な規制が、労基法20条の「(使用者の)解雇予告義務」です。上述の2週間前の予告に比べ、その期間が30日前と延長されていることがわかります。その趣旨は、労働者の生活上の打撃の緩和や解雇時における転職等の費用として、概ね30日分の賃金を求めているからだといわれています。もっとも、顔を見たくないと思えば、使用者は予告の代わりに30日分の平均賃金(※②)である予告手当を労働者に支払えば、当該労働契約の解除ができます。そうすると、ここまではたしかにあの経営者の言う通りですね。

※① 問題は、通常の商品とは異なり、商品化された労働者の労働力はその背後に、一個の具体的人間としての人格を有する人間が分離しえずに存在していることです。そこから、労働者の自由や平等、労働者人格権の確保が求められるのです。

※② 賞与を除く、直前3か月間の賃金の総額を平均した一日分(算定方法は労基法12条)

(続く)

プロフィール


(オイカワ ショウヨウ)
『地域連携プラットフォーム』に勤務の傍ら、某大学の研究所に所属。
複数の国家資格を有し、また『府省共通研究開発管理システム(e-Rad)』に登録され、研究者番号を有する研究者でもある。