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キャリアコンサルティングの役割―私見

キャリアコンサルタントに追い風が吹いています。三位一体労働市場改革の指針について議論された『新しい資本主義実現会議』における昨年5月16日岸田・前首相の発言です。

リ・スキリングによる能力向上支援ならびに労働移動の円滑化に関るものでした。岸田氏はそこで、「求職・求人に関して官民が有する基礎的情報を集約、共有して、キャリアコンサルタントが、情報に基づき、個人のキャリアアップや転職の相談に応じられる体制を、整備いたします」と述べました。それ以降、政府の各施策の中で、たしかに「キャリアコンサルタント」という文言が目に付くようになりました。
 
キャリアコンサルティングの役割としては、次のようなものがあります。

・個人に対しては仕事や職業を中心にしながらも個人の生き甲斐、働き甲斐を含めたキャリア形成支援をする。

・個人が自らキャリアマネジメントをすることにより自立・自律できるように支援する。

・組織に対しては個人の主体的なキャリア形成の意義・重要性を組織に浸透させるとともに個人と組織との共生の関係をつくる上で重要な役割となる。

・キャリア形成、キャリアコンサルティングに関する教育・普及活動、環境への働きかけを含む。
(以上、弊校『国家資格キャリアコンサルタント養成講習テキスト』25頁)

 
そのうえで、私はキャリアコンサルタント(以下、CCといいます)による「自律的キャリア形成への援助」ならびに「適切な情報の提供や助言」が重要だと考えております。前者は傾聴を基本としつつ、クライエント(同じく、CL)に冷静かつ客観的に自らの興味や能力、適性について気づきを促すことです。その結果、CLが自ら主体的に変わろうと努めるようになることが期待できます。またCCが適切な情報の提供や提案を行い、目標の設定や方策の実行を支援するというものです。とくに今後は、リ・スキリングの選択やキャリアアップや転職に係る相談支援にCCの役割がいっそう期待されます。
 
そこで注目されるのが、厚労省の『キャリアコンサルタント登録制度等に関する検討会報告書~キャリアコンサルタントがその役割を果たしていくために~』です。そこでは、CCとして活動している者の領域が、従来からの需給調整機関からさらに企業や地域・福祉等機関にまで活動の場が拡がっている(令和4年度独立行政法人労働政策研究・研修機構『キャリアコンサルタントの活動状況調査(第2回)』)とされています。そうしたとき、政府の「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」でCCに求められた職能を果たすためには、経済社会情勢の変化に対応して適切な助言を行う能力がより求められるものと思われます。
 
そのうえで、従来から必須であったCLの自己理解を促進するためのカウンセリングの基本的スキルの熟達ならびに職業能力(開発)情報の充実のみならず、「労働市場の知識」すなわち求職者(労働者)と求人者(使用者)とのマッチングの仕組みに関わる法(労働市場法。雇用保険法や職業安定法、職業能力開発促進法など)ならびに財やサービスを生産するために必要な資源(生産要素)である「労働」を取引する市場(労働市場論)への知見も、今後必要になるはずです。とくに、それらは各種統計指標に基づいた最新の情報でもってアップデートせねばなりません。
 
すなわち、そこには産業構造の変化に対応した企業の人材育成のために、キャリアコンサルティングを行う知識として、従来の「精神的なケア・心理的問題の解決へのサポート」といったキャリアやカウンセリングに関する知識・技能から、職業能力の開発(リカレント教育を含む)や企業におけるキャリア形成支援を経て現在は、労働市場や労働政策ならびに労働関係法令への重点化がうかがわれます。その意味で、CCの役割が「CL個人への支援者」から変質し、成長産業への労働者の適正な労働移動(労働市場の流動化)という雇用システム上の政策目標への「協力者」のような役割が為政者から期待されているように思われます

もっとも、そうするとますます守秘義務ならびに多重関係といったカウンセリングでの倫理問題が惹起され、誠実なCCほど道徳原理、たとえば自律尊重原理や正義原理、忠誠原理といった倫理ジレンマに悩むことになるのかもしれませんね。換言すれば、実際の問題に直面してCCは、国家の政策的目標(国家的価値)と基本的人権(市民社会的価値)のいずれを重視するべきかとの二項対立的かつ実践的な課題です。「いったいどのような価値を提供すればよいのか」という価値選択とCCの社会的責任の問題でもあります。そこで、ますます『アドボカシー(権利擁護)』や『ソーシャルジャスティス(社会正義のキャリア支援)』がCCに問われることになります。皆さまは、いかがお考えになりますか。


著者プロフィール

オイカワ ショウヨウ 『地域連携プラットフォーム』に勤務の傍ら、某大学の研究所に所属。 複数の国家資格を有し、また『府省共通研究開発管理システム(e-Rad)』に登録され、研究者番号を有する研究者でもある