顔色の悪い虫眼鏡
虫眼鏡と巫女は、今も仲良く茶会を楽しんでいたりするのである。
ずいぶん、あなた大きいですねえ。
あら、そうかしら。
虫眼鏡は、自分が見る世界はひとまわりふたまわり大きく見えると言うことを一向に学ばないので、周りもそれに合わせてうまく付き合っている。
巫女のはだけた胸元からぶら下がっている虫眼鏡はなんだかぐんにゃりしている。
あなたの それ はずいぶんとお元気そうで。
あら、そうかしら。
あなたの顔色が悪すぎるのよ、とは言わなかった。
もともと虫眼鏡は体が丈夫じゃないし、大抵が太陽の熱でとけてしまう中で生き残っただけでもすごいことだからだ。
でも、何度もこうして会っているけど、会うたびに虫眼鏡の顔色は悪くなる一方なので、巫女はいよいよ心配になってきた。
でも、巫女はあくまで見かけだけの巫女なので、お祓いなどはできないし、巫女自身もそんな力が存在するとは信じていないのでどうしようもない。
その時、強い西日がカフェテラスの窓から差し込んだ。
あっと思う間もなく、虫眼鏡はじゅっと音を立てて、とけて消えた。
巫女は黙って、残りの紅茶を飲み干した。
そして気づくと、胸元にかけていた小さな虫眼鏡も、すっかり消えていた。