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野菜みたいな

心臓って、野菜みたいなもんなのよ。
うちのお手伝いさんは、土がついたままのリーフレタスを咥えながらいつもそう嘆いている。

野菜みたいだから、どうせいつかは鮮度が失われちゃって くたあっとしちゃうし、放っておいたら根っこが生えたり芽が出てきたりするのよね。

つまりどういうわけだと首を捻ると、お手伝いさんはずっと巻煙草のように咥えていたレタスを口から離し、胸に手を当てた。

ああ、まさに今、根っこが生えた。

その伸ばされた根が食い込んで痛むのか、お手伝いさんは苦悶の表情を浮かべた。

うぅん、ああっ、二本目が、生えようとしてるわ。

床の上に転がり、身悶えしながら艶かしい声でそう呟いている。
それを見て、助け起こそうかどうしようか迷っていると、胸のあたりがしくりと痛んだ。

ああ、自分の心臓もか・・

あまりに激しく痛むので、お手伝いさんの隣に倒れ込み、悶える形となった。

うう、あ、ああっう・・

意識が遠のきそうになり、咄嗟に近くに落ちていたものを掴んだ。
なんだかしゃくしゃくしていて、土っぽいものだなあと感じるかどうかのところで、意識が完全に無くなった。



その日、ある一軒家のリビングで、胸を押さえたまま倒れた女性と、手にしっかりと、リーフレタスを握りしめている男性の遺体が発見される。



後ほど遺体を確認した検死官は、青ざめた顔で検死室から飛び出てきて、言った。

二人の心臓が、どくどくと、恐ろしいほどに激しく脈打っていたのだ、と。






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