
お別れ
目の前に、さびて崩れ落ちそうな小さな公園があった。
どことなく懐かしさを感じるその公園に足を一歩踏み入れる。
踏み入れた途端、いきなり視界が低くなって、手も足も小さくなっていた。
お気に入りだった、いつかの運動靴を履いた足を動かして、走った。
体が軽くなって、飛び跳ねるようにして公園を走り回った。
するとブランコが視界に入った。
ブランコに呼ばれているような気がして、その丸みを帯びた柵を乗り越えた。
柏の木の下のブランコに乗って、こぐ。
胸いっぱいに、清々しい空気を吸い込んだ。
満足して、ブランコからとん、と飛び降りて、すべり台の方へ駆けた。
階段を登って、下を見下ろすと、さっき乗ったはずのブランコが無くなっていた。
もしかしてこのすべり台も、自分が降りたらぽっかり消えてしまうのだろうか。
怖くて、金属の手すりにしがみついていたけれど、やがて決心して滑り降りた。
いつかは、お別れしなければならないものだってある。
とすん、と芝生の上に降りて、後ろを振り返ると、すべり台は跡形もなく消えていた。
この小さな公園には、遊具が三つしかない。
最後に残った鉄棒に駆け寄り、一番低いのに手をかける。
逆上がりが、どうしてもできなかったあの頃。
最後、絶対に成功させて、この鉄棒とお別れするんだ。
ぎゅっと手に力を入れて、勢いよく地面を蹴った。
視界がぐるりと回って、もとの場所に戻ってきた時、成功したんだと実感した。
それからもう一度、ぎゅっと鉄棒を握って、ゆっくりと離した。
鉄棒は、まるで幻だったように薄れて消えた。
ありがとう。
そうつぶやいて、公園の柵から出た。
目が覚めると、そこは自分の部屋だった。
夢の中の出来事が、怖いほど鮮明に脳内に映し出されている。
あの公園。
あれは、自分が小さい頃、よく学校帰りに遊んでいたところだった。
今の出勤先はあの頃の小学校と別方向で
それと同時にあの公園にも卒業してから一度も行っていなかった。
なんだか胸騒ぎがして、身支度を整えると懐かしい通学路を辿った。
そして今、僕はかつての公園の前で立ち尽くしていた。
立ち入り禁止のテープが貼られた公園の柵の中は、土が盛り上がって荒れていて
遊具は今ちょうど解体されてトラックで運ばれるところだった。
ついさっき、夢の中で触れて、乗って、遊んだ遊具たち。
__いつかはお別れしないといけないものだってある。
夢の中で呟いたその言葉を思い出して、顔をあげると変わり果てた公園を見て呟いた。
「ありがとう」