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すりこみ
鏡に突進していく雛を見るのは、何度目だろうか。
よたよたと頼りない歩き方なのに、鏡を見ると、急に母親に駆け寄るような様子で走っていき、結果ぶつかる、ということが勃発している。
雛を育てる仕事をここ三年もしてきて、それの謎に気づいたのは
昨日のことだった。
雛というものは、最初に見た者の顔を母親だと認識する。
鏡のなかの自分を最初に見たひなが多くなったため、鏡を見ると突進するようになったのだ。
でも、問題の半分以上はすっきりしない。
なぜ、そんなにも生まれてすぐに鏡を見る雛が多いのだろう。
自分は、鏡など近くに置いていないはずなのに。
行き当たった答えとしては、どうやら毎晩毎晩、生まれてすぐ雛を探しては、鏡を見せつける非常に悪質な者がいるらしい。
なるほど、と僕は一人で納得した。
ひとしきり納得したら、次はそいつをとっ捕まえてやらないと気が済まない。
正直、鏡に突進してぶつかって転ぶ雛たちの面倒を見るのは大変なのだ。
結局捕まえるためのいい案は浮かばず、とりあえず護身用の小刀と懐中電灯を持って、夜の、庭にある鶏小屋に出る。
ちょうど今日、雛が生まれたばかりだ。
男は涎を垂らしてくるだろう。
だが、いつまでたってもそいつは現れなかった。
寒くなってきたので、僕は母家に戻ることにした。
その後、いつまでたっても犯人はわからず、僕は鏡に頭をぶつけ続ける雛たちにため息をつきながら、仕事を続けている。
完
(ちなみに、その犯人は子育てするのが面倒だった私だったという話はこの男には内緒にしておいてくださいね)
雛たちの母親より