
とけるときに
問題を解こうとしたら、問題用紙が溶けてしまった。
「何をやっとるんだあ」
先生には叱られるし、手は溶けた問題用紙でドロドロだから、もう二度と問題なんか解くもんか、と決意した。
でも、家に帰れば両親が、テストはどうだったんだとしきりに聞いてくる。
ドロドロに溶けちゃったんだよ、と消え入りそうな声で告げると、一瞬目を丸くして二人は顔を見合わせた。
後で、父親がちょいちょいと手招きをしてきた。
「父さんも、一度、テストをドロドロに溶かしちまったことがあるんだ。頑張って解こうとすればするほど、用紙も溶けていくんだよな」
これは、誰もが人生に一度はしでかすことらしい。
でも、それを経験して初めて、子供から大人へと昇格するのだと、父親は言った。
次の日のテストは、どれだけ考えても、紙が溶けることはなかった。
でも同時に、問題もさっぱり解けなかったのだけれど。