表紙

2019年ベスト10本 上

 色々と忙しかったのであまり観られなかったのですが、ここ数年で比べると2019年は当たりの映画が少なかったような印象です。私が慣れてしまったのか、景気が悪いせいなのか、2018年に傑作が多かったのかは分かりません。とりあえずここに書いた10本は観ましょう。

The Guilty

 通報を受けて、パトカーに指示も出す緊急通報指令室に勤務するアスガーは、さっさと現場に戻りたいと焦れていた。そんな中でかかってきた一本の通報、電話口には女性、荒い息遣い。「誘拐か?」「はい」「落ち着いて、絶対に助けるから」。声だけの被害者、姿の見えない犯人。緊迫の攻防が始まった . . . . . . . 

 音声によって頭の中に作られるストーリーと何も変化がない指令室の映像の構成は、まさに事件と物理的に隔絶されている主人公の感覚にさせてくれる。事件に直面して焦る主人公と、何も起こっていないかのような指令室との対比が面白い。同じ場所、人でも画角やテンポで飽きさせない。非常に巧妙でスリリングなサスペンス。

ウトヤ島、7月22日

 2011年7月22日、ノルウェーの湖に浮かぶウトヤ島では労働党の青年組織が主催するサマーキャンプが行われていた。政治家という将来を考えているカヤは友人と政治について話していた。すると、どこからか人が走ってくる。一様に不安気な表情だ。パン、パンパン。乾いた音が響く。甲高い悲鳴も聞こえてきた。逃げてきた人が叫ぶ。「男が銃を乱射している!」。湖に浮かぶ孤島で、無差別テロが始まっていた. . . . . . 

 実際に起きた同時テロを再現したこの作品は、72分間ワンカットだ。常に主人公カヤを見ていることになるが、走って揺れ、地面に伏せて止まる画面に、その場の1人となったかのように錯覚させられる。見えない犯人と、伝播していく恐怖という、あまりにリアルな仕上がりで、嫌でも記憶に刻み込まれる。

※ノルウェー連続テロ事件 オスロの政府庁舎での爆弾テロ、ウトヤ島の銃乱射が同日に行われ、オスロでは8人、ウトヤ島では69人が殺害された。単独の犯行と言われており、実行犯はノルウェーでは最高刑の禁固21年となった。(日本経済新聞より)

ブラッククランズマン

 1970年代半ば、コロラドスプリングスで憧れの警察官となったロンは初の黒人刑事だった。差別的な扱いを受けるも、情報部に配属されたロンは悪名高い白人至上主義団体KKKに電話、入会を希望した。無事に面接まで進んだが、問題はロンが黒人であること。相棒となった白人刑事フリップが面接に向かい. . . . . . 

 ブラックユーモアと差別発言満載。時事にも切れ込むその切れ味は邦画では見られない。力を入れすぎず、ふざけすぎない登場人物の空気感が観ていて心地良い。最後のシーンはかなりショッキングなので注意。でも観てほしい。

ホットギミック ガールミーツボーイ

 典型的なJK、初の周りには3人の男。いつもやさしく守ってくれる兄、凌。いつも棘があるドSの亮輝。超モテるモデル幼なじみ梓。基本イケメンな3人に囲まれて、傷つき、高揚し、恋をした。翻弄されながらも自分の気持ちと向き合い続けた初が選んだ答えとは . . . . . . 

 青春、はかなさ、初恋、恋愛、純情、そういった概念を全て混ぜて極限まで煮詰めたもの、あるいは、中高生や乙女心を忘れない人達の妄想を完璧に具現化した陶酔ドラッグエンターテイメント。テンポや映像構成、世界観の完成度が非常に高い。ただ、劇中歌に歌詞があったのでその時は妙にMV感が出てしまって現実に引き戻された。それ以外は没入できて良い。

海獣の子供

 「彼らはジュゴンに育てられたんだ」。部活から追い出され、退屈な夏休みになってしまったルカが出会ったのは無邪気で奔放な少年ウミと、賢く理知的なソラ。育った環境も、価値観も違うはずの彼らにルカは惹かれていく。そして、世界中の海では異変が起り始めていた。クジラの歌と2人に導かれ、ルカがその夏に触れたのは、世界の秘密 . . . . . .

 圧倒的な映像美。一瞬一瞬がまさに息をのむほど美しい絵画で構成されていて、人生で最も美しい映像となるかもしれない。映像と音が五感を刺激し、豪雨の感触、海中の水の流れを感じられる。ストーリーは示唆的で、抽象的な問いの解釈は観客にゆだねられる。独特な哲学を基礎として構築された世界観は非常に魅力的で、フィクションの中でも、真実があるような感覚にさせる。

コメント

 まずは5本紹介しました。ホットギミックは本来であれば、性に合わないとスルーするところなのですが、クオリティが非常に高いので紹介せざるおえなかったです。今年だと海獣の子供は特別です。筆者にとっては「生きていてよかった」「アニメーションの限界を超えた」くらいの熱量を持っています。人生の中で絶対に忘れない1本となりました。他の作品も含めて、楽しむだけではない映画を紹介しているので是非観てください。

画像出典一覧(映画順)

(https://guilty-movie.jp/)(https://www.youtube.com/watch?v=3a7NdCQRf7I)(https://bkm-movie.jp/)(http://www.hotgimmick-movie.com/)(https://www.kaijunokodomo.com/)


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