Impression【成長を支援するということ④・変化への渇望を呼び起こす】
本が戻って参りましたので、いよいよ再開です。都知事選のコラムから約一ヶ月かかりましたが、またコツコツと進めていきましょう。前回はこちらから。感情の伝染や5つのディスカバリーといったテーマをまとめています。
そして本書の第4章では、アーロンという小さな子供のストーリーから入ります。
詳細はぜひ本書の中にある実際の画像をみて頂ければと思いますが、学校で「家」や「飛行機」をテーマにして絵を描いた時、アーロン君は線がグチャグチャで家や飛行機の外観とは似ても似つかない絵を描いていたわけです。
この絵を見た担任と校長先生はアーロン君に何かしらの「障害」があると考え、協議の結果、両親にアーロン君を特別支援学校へ転向させるべきという立場を取りました。両親は普段の我が子からはそのような兆候や必要性を感じないと主張し、一般校で機会を与えられるべきと主張しましたが、教職側も転校という結論を譲りません。
そしてある時、両親が渡された絵をもっているのを見たアーロン君が両親に駆け寄ってきてフィードバックを求めます。父親は「好きだ」と答え、我が子に「どう見えていたのか?」「どうしてこういうふうに描いたのか?」と聴いていきました。すると5歳のアーロン君は
「配線や配管のない家なんてないし、油圧や電気システムがない飛行機もないから、外側を先に描いてしまうと中の大事なものが見えなくなっちゃう」
と答えたわけです。
そう。ここまで来ると、私達は教職のベテラン達がなぜミスをしたかということに気づくことが出来るわけです。
☆現在地を決めるのはクライアント
本章の前半ではこうした経験や相手との上下関係といったバイアスによる思い込みへの警鐘からスタートしています。「出来る」「わかっている」という自信は裏返ってこうした落とし穴にはまりやすく、アーロン君のケースでは担任教諭が両親に伝えることなくアーロン君の利き腕を変えよう(左から右へ)として、アーロン君が担当教諭に警戒心を抱くような背景となった過去の事例も発覚しています。
支援者が「良かれ」と指導、指示あるいは強制をすることは往々にしてこうした将来の致命傷にもなりかねません。そもそも自己選択を決定するということは幸福度にとても高い相関を示す部分でもありますので「教える」「アドバイス」といった行為に関しては、とても注意深く扱う必要があるわけです。
結果論としてアーロン君とのコミュニケーションを欠いたことやそのスキルの不足といったことを外から責めることは容易ですが、いざ自分事となった時に自分がどれだけの「質(quality)」で実行出来るかどうか。
この点はより重要な課題です。章の後半は、この我が事にするという意味でのアプローチが描かれています。
「足し算もできない子供に天文学をどう教える? 天を見上げて美しさや不思議を感じたり、時間をかけて星々を観察する事から始まるのではないかね?・・知ることにも順序があるのだ」(グラン・ローヴァ物語より)
☆避けたい関わり方のまとめ
前記のように、対人支援における多くの現場では、対象者(クライアント)に対し「正そう」という関わり方が実施されています。
この「正しさ」「正義」という信念はとても厄介で、支援者は疑うことなく対象者へ「義務」を課し「指示」「命令」を行い、時には「論破」して従属させようとします。
この「正しさ」は支援者に対し支援者に対し中長期はもちろん、短期ですらよい結果をもたらすことはまずありません。人はこうした行為に対し「反発」する生き物ですから、従属したふりをしてやり過ごす癖、習慣を身に着けてしまうケースも多いでしょう。また、支援者という存在そのものに対する悪い刷り込みがおこり、援助を求めないという信念が育ち、自らの選択肢を狭める結果にもなるでしょう。
以前にも触れましたが、支援者としてお金を払う会社の為に働くわけだから、支援者と会社における契約終了までの期間が良ければ対象者自身の意志や感情や背景なんかどうでもいいという誘導型のコーチングや支援を行う。
そんな考え方や関わり方には僕は「NO」と言いますし、長期的には会社や支援者に対し大ダメージを与えていることは様々な研究からも明らかだと思います。
☆「他者理解」の本質
つまるところ、コーチというポジションにおいては「他者理解」の質がコーチングの質に直結しているともいえるでしょう。
私達コーチは Positive emotion(前向きな感情)による副交感神経へのアプローチを行うことでパートナー(クライアント等)がよりよい状態になるように努めていきます。そして、その方法はマインドフルネスや思いやりの受け渡し等、様々なアプローチが考えられます。
このアプローチで前記のような上下関係、思い込みといった要素によってパートナーに逆にネガティヴ(Negative emotion)の反応をさせて、交感神経を刺激し、防衛モードに入らせるようでは意味がありません。
目の前のたった一人を見つめ、観察し、その反応からよりよいアプローチを提案していく。そんな発見し、仮説をたて、それを実行するだけの引き出しを持っていること。これが、コーチとしての「質」を決定する要素でもあり、また「個別化」というテーマに対する「解」でもあるといえそうです。
本章ではまとめとして対象者が学び、変化していくための人間関係の形として
・ヴィジョンを共有すること
・相互に思いやりを示すこと
・二者の関係から生じる活力を活かすこと
を挙げています。そして特に活力を活かすことが「やり抜く力(GRIT)」をもたらすものでもあると指摘しています。
次章では神経科学の視点からより深堀りしていく内容になっています。
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