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【Vol.1】中国全省を旅して〜 ”主体的に行動したい” 全ての大人達へ〜

序章

僕は2019年の秋、39歳で教育系ベンチャー企業の常務取締役兼日本初の語学コーチングスクール代表を退任し一路、中国へと向かった。振り返ると当時は、コロナウイルスが発生する数ヶ月前のタイミングだった。渡中の目的は人生の夢の一つである中国全省の旅に挑戦する為だった。

当時の僕は経営のストレスと最愛の母の急逝により完全に自分を見失っていた。少し話を遡りたいと思う。今から約17年前の2006年に僕は初めて日本初の語学コーチングスクールに出会い、人生が大きく変わった。海外駐在、イギリスMBA、四川省成都への中国語留学、成都出身の妻との国際結婚、学生時代は留学経験はなく、英語も中国語も全くのゼロだった。大人になってからでも語学力は身に付けられるし、国際感覚を磨くことは出来るという原体験が僕を語学コーチング業界へと誘ってくれた。その経験を一人でも多くの方達と分かち合いたいという思いで入社したのが僕が通っていたその語学コーチングスクールだった。

しかし、2019年、語学コーチングを通して、人の人生に向き合うことを生き甲斐としていた僕は、真っ暗な闇の中で、どこに向かって良いのか分からず八方塞がり、ただ、”自己犠牲”という耳障りの良い言葉だけを頼りに所属部門の”数字”を上げることを最優先に邁進していた。そして、その結果待ち受けていたのは強烈な心身の不調だった。

そんな僕は役員を退任後、どこに行く当てもなく、「そういえば、北方領土をこの目で見たことがないな」という気持ちだけを頼りに、北海道の道東へと向かった。妻と車で道東を巡り、美しい自然や新鮮な海産物など北海道の誇る観光資源に感動しながら、そして、日本にもれっきとした領土問題があることを体感しながら北海道についての学びを深める最中、以前から潜在意識に眠っていた「中国全省の旅」に対する思いが徐々に強まっていった。

先にも記載した通り、僕は2007年から2009年まで海外駐在員として新卒で入社したSONYのグループ企業の上海支社に勤務していた。その期間にある程度中国を旅したことはあったし、日本で働いていた時は少なくとも年に一度から二度は中国の各都市を旅していた。しかし、中国を訪問すればするほどその大きさに圧倒された。中国は日本の面積の25倍もあるのだ。計算の結果、長期休暇を使っての日本からの旅行では定年を過ぎても全ての省を回ることは難しいかもしれないという結果が弾き出された。

また、僕の場合、仕事の合間の休暇を使ってのいわゆる「旅行」ではストレス発散の”バカンス”にはなるが五感を解放しクリエイティビティーを刺激する為の”旅”にはなりづらいと感じていたこと、また、最愛の妻が中国の成都出身であり、彼女の生まれた国をこの目でできる限り見て感じたかったことなど多くの理由が重なり、一念発起して中国の全ての省を回るというプロジェクトを開始した。

そして、旅の途中、旅を終えて、多くの方々から様々なコメントを頂いた。

「周りに中国の全ての省を回ったことがある人なんて聞いたことがない」

「そもそも中国の全てを回ろうなんて、そんな発想が思いつかない」

「怖いと思わないんですか」

「行動力が凄まじい」

「やってしまうところがすごい」

「コロナ期間中なのだから自粛すべきだ」

ポジティブなだけではなく、僕にとってはネガティブな内容も含め、様々なコメントを頂いた。Twitterやインスタでは匿名で胸をえぐられるような辛辣なコメントもあった。

やりたいことを行動に移すことは、必ずしも楽しいだけじゃない。賛同者もいれば必ず反対者もいる。これは経営でもマネージメントでも起業でもそうだろう。自己評価をベースに、自らを貫くプロセスは心地よいことだけではない。特に、前例がないことや周囲に経験した人がいないことをやるときには不安もある。でも、僕自身が考える”自分が自分であろうとするそのプロセスを生きる”という文脈の中では、”周りにやっている人がいないからやらない”、”不安だから行動しない”という生き方はポリシーに反する。価値観に反する。

何が起こるか分からない、計算もできない、でもワクワクは確実にある。潜在意識の中に、「この方向に行けば面白そう!楽しそう!」そんな、ただ純粋な気持ちに従って行動することで開ける道もあるのではないかと直感的に感じているし、これまでの人生で、”この感覚”に従い決断したことで後悔したことは、驚くほどに一度もない。

僕は今、ライフコーチとしてビジネスパーソンやエグゼクティブを主に支援しているがコーチの資質として最も大切なことは、技術や資格ではなく、”自分が自分らしく生きられているかどうか”であると思っている。自分らしくあるということは、時に社会の常識や、他人の価値観に反することを行動に移すことも含まれ、そのプロセスで葛藤を味わったり、もがいたり、苦しさが同居するプロセスでもある。

だが、そのプロセスに真摯に向き合うことにこそ、僕は意味があると思っている。何故なら、人の人生に関わる対人支援者の一人として感じるのは、”コーチの生き方”がクライアントの意識や行動に影響すると感じるからだ。自分らしく生きようと、自らに向き合っているからこそ、ありのままでいられるし、自らの体験や感情にしっかりと開かれた状態だからこそ伝わる”言葉”があると信じている。世俗的な欲望や刹那的な快楽のみに縛られることなく、自分の理想的な人生に向き合う態度を磨き続けられる自分でありたいと再確認できたことがこの旅を通しての大きな気づきだ。

気持ちを書き起こしながら改めて感じる。僕は、中国通になりたくて中国全ての省を旅したのではないのだと。僕は、好奇心に開かれた自分であり続けるために、ただ、やりたいことやっているだけなのだと。自分を見失いかけていた39歳当時、心療内科でのドクターストップから、今一度自らと一致する為、自らと統合するいちプロセスとして直感に誘われた行動だった。これが現時点で感じる旅の”答え”だ。初めて中国に足を踏み入れて16年以上の月日が過ぎた。中国大陸全ての省、直轄市、自治区、香港、マカオ、台湾、全ての地に足を踏み入れた。この経験が今後どう活きるのか、何に繋がるのかは僕にはまだ分からない。ただ、限りある人生、”好奇心”というアセットを最大限に活かして、僕はこれからも人生を生きていきたいと思う。そして、今に悩む人たち、今をよりよくしたいと願う人たちの声に耳を傾けられる人であれるよう、そしてコーチであれるよう、これからも自分らしく生きていく。

最後に、この16年という歳月を掛けて、この壮大な旅を続けることを後押ししてくれた妻、僕の好奇心を一切否定せず、可能性を信じ、”許可”を出し続けてくれたこと、心から感謝しています。あなたは僕にとって最高の”コーチ”です。そして、旅で出会った多くの方々、14の国と国境を接し、56の民族が暮らす中国という国だからこそ感じられたその多様な文化と雄大な歴史、これまでの人生の何よりも刺激的な時間でした。そして、自らを信じ、自分らしい人生を創造しようと僕をコーチに選んでくださっているクライアントの皆様に心からの感謝を込めて、序章の筆を置きたいと思います。

愛する地元、東京下北沢の片隅にて

COACHING-L代表
刈谷洋介

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