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カナダ旅行記2023 ⑯ ケベックシティで過ごした最初の夜


5年ぶり9回目となるカナダへの渡航について徒然なるままに、その時々の思いを残しておきます。脈絡なく、率直に、その時々の思いを。

昨年のカナダ旅行からもうすぐ一年が経ってしまいます。この旅行記を書き始めたのは、カナダに辿り着いて一泊目を過ごしたモントリオールでした。日記のように、その時々の思いを、さらっと書き残そうと思って始めたのでした。それが、あっという間に帰国し、いつのまにか時が流れ、今や過去の思い出を掘り返しつつ、この旅行記を書いています。

これまでの記事はマガジンに纏めています。始めから読みたい、再度読みたい、という奇特な方に向けてこちらにマガジンのリンクを貼っておきます。お読みいただけると嬉しいです。




今回の記事から、ケベックシティでの話に移ります。私にとって第二の故郷のようなプリンスエドワード島と比べ、ケベックシティは観光客の気分で訪れる地です。過去に2回訪れたことがありました。2回目が2006年のことでした。この度の3回目の訪問は、ほとんど20年ぶりになります。

ケベックシティはケベック州の州都です。同じ州にあるモントリオールに比べると、小さな都市です。フランスからの移民が開拓した歴史があり、フランス文化圏です。カナダは英語とフランス語の両方が公用語ですが、ケベック州ではフランス語が優先して使われています。

旧市街と呼ばれるエリアが丸ごと世界遺産に登録されており、カナダの他の地では見られないヨーロッパの古都の雰囲気が残っています。主要な見どころは徒歩圏内にあり、ガイドブックなどの案内を見ると、観光に必要な日数は1~2日程度とあります。こじんまりとしているんです。私はここに3泊しました。ゆっくりと過ごすことができました。

ケベックシティーの概要について知りたい方は、Wikipediaにてどうぞ。


さて、長い前置きはここまでにします。今回の記事は、ケベックシティに着いたその夜の話を中心に進めていきます。もうね、着いた夜からとても良い時間を過ごすことができたのです。




前回のカナダ旅行記2023 ⑮ の後半にも書きましたが、シャーロットタウンからケベックシティへは、モントリオールを経由して飛行機で移動しました。私にとっては初めてのルートでした。その昔、ケベックシティを訪れたときは、長距離バスを使って向かったものです。途中の街にも立ち寄って、何泊かかけて向かったものです。

さて今回は、16:20 にシャーロットタウン空港を飛び立ち、ケベックシティのジャンルサージ空港に着いたのは 18:45 でした。バスでの移動に比べればあっという間です。国内線での移動なので、空港を出るための手続きはなく、預けた荷物もスムーズに受け取ることができましたが、空港のタクシー乗り場に辿り着いたのは 19:30 近くだったと思います。

空港から市街地までは車で30分程度です。タクシー料金は一律で決まっていて、私が乗ったときは42ドル程でした。ドライバーさんに行先のホテル名を伝えたらすぐに分かってくれました。道中は特にお話することは無かったけれど、私が車の窓から外を熱心に眺めていたら、「窓は自由に開けていいよ」と声を掛けてくれました。

空港から旧市街地へ向かう途中の街並みは、カナダの他の都市のそれとほとんど変わらないと思います。私の中の記憶も、もはやモントリオールとケベックシティの風景がごっちゃになっています。

でも、ケベックシティの旧市街地に近づくと、くねくねと道が曲がり、坂が多くなり、様子が変わってきたのを感じました。所々に残っている城壁に囲まれた旧市街の中に入ると、道幅は狭くなり、タクシーの速度はゆっくりになりました。多くの人が外を歩いているのが見えました。

私が宿泊するホテルは、旧市街地の中でも特に賑わっているサン・ジャン通り(Rue Saint-Jean)にありました。徒歩であちこちを見て回る予定だったので、便の良いところにしたのです。


Rue Saint-Jean 21時頃の様子 賑やかです


タクシーのドライバーさんがホテルの入り口まで荷物を運んでくれました。ホテルの1階にはテラス席があるレストランが入っており、ホテルの入り口はレストランと共用のようでした。一見分かり辛かったけど、ドライバーさんがここが入り口だよと教えてくれて助かりました。




さて、ホテルの入り口を入って進むと、すぐ目の前にフロントデスクがありました。カウンター2つの小さなフロントでした。50代と思われるおじさまのスタッフが直ぐに声を掛けてくれました。「Bonsoir(ボンソワール)」とフランス語で。

私も「ボンソワール(発音が正しいのか分からないけど、とりあえず)」と答え、直ぐに英語に切り替えてチェックインをしたいと伝えました。すると、あちらも直ぐに英語に切り替えてくれます。モントリオールでもそうでしたが、ケベックシティでも、まずはフランス語で話しかけられます。

おじさまスタッフは物凄く感じ良く、スムーズにチェックイン手続きを進めてくれました。このおじさまだけでなく、ここのホテルのスタッフの方はみんな総じて感じが良かったです。私の前職はホテル業なのですが、元同業者からのやや厳しめな目で見ても、ここのホテルのスタッフは素晴らしかったです。堅苦しいホテルマンという印象は全くなく、フレンドリーなのですが、やることはプロフェッショナルでした。どこでそう感じたかは、また後ほど。

チェックインしてお部屋に入り、荷物を置いて身軽になったら、また直ぐに外へ出ました。もう20時半を回っており、お腹が空いたので夕食を求めて街へ繰り出したのです。フロントを通ったときに、おじさまスタッフがまた挨拶してくれました。




サン・ジャン通りは、日本で例えると渋谷のセンター街みたいな感じです。夜遊びしている若い子たちがたくさんいました。そして、何度か声を掛けられました。ささっと逃げたのでよく分からなかったけれど、お金をせびられたのだと思います。人通りが多いので怖くはありませんが、ちょっとドキドキしました。ちなみに、昼間はそんなことなかったです。

とりあえず、夕食を食べるところを探そうと思って、サン・ジャン通りを中心にうろうろしました。21時近くになっていたと思いますが、飲食店はどこもやっているようでした。路面に席を設けているレストランが多く、みんな賑わっていました。

モントリオールの夜もそうでしたが、ひとりでこちらのレストランに入るのはちょっとハードルが高いものです。日本はおひとりさま文化が根付いていますが。それでも、どこか入りやすそうなところはないかと、うろうろ歩いていると・・・

聞き覚えのある音楽が耳に入ってきました。ピアノの曲です。


選曲が素敵でした


音楽が聞こえる方に近づいてみると、電子ピアノのストリートパフォーマンスが始まったところでした。若いお兄さんでした。彼のパフォーマンスが素晴らしかったのです。

とても賑やかな通りの真ん中で聞こえてきたピアノの音色は、まるでその場を浄化するような響きをもって聞こえてきました。私を含め何人かは遠巻きに息をひそめるようにその場に佇み、通りを行き交う人々も静かに見守りながら通り過ぎていきました。

先ほど聞き覚えのある音楽であったと書きましたが、実は私の大好きな作曲家であり演奏家である Ludovico Einaudi(ルドヴィコ・エイナウディ)の曲でした。お兄さんが演奏していたのは「I Giorni」でした。



この美しい曲を、お兄さんは何のアレンジも加えずに、ただ静かに演奏していました。この曲を知っている人も、知らない人も、あの場のいた人はみんな少なからず心揺さぶられたと思います。

個人的に好きな曲であったというのもありますが、私もとても心揺さぶられました。この日の午前中にはまだプリンスエドワード島にいて、好きなカフェでランチをして、島の家族と別れを告げ、2つの飛行機を乗り継いで、ほとんど20年ぶりに訪れたケベックシティで、まさかこの曲のライブパフォーマンスを聞けるとは。なんだか、どこか遠い遠いところに来たような気がしました。

そして、さらに驚くべきことに、次にお兄さんが演奏した曲も、何度も聞いたことのあるものでした。



一曲目の Ludovico Einaudi は、イタリア人の作曲家です。続いて演奏されたのは、韓国人の作曲家である Yiruma(イルマ)の「River Flows in You」でした。お兄さんの選曲のセンスに痺れます。

私が Yiruma のことを知ったのは2005年のことでした。初めてカナダに渡った年です。この年の5月にプリンスエドワード島に渡るまで、私はバンクーバーにいました。シェアハウスに住み、語学学校に通い、久々の学生生活を満喫していました。懐かしいな。

シェアハウスのルームメイトのひとりに、韓国人の男の子がいました。男の子と言っても私とひとつ違いの年下だったので、当時26歳。一緒にいたのは3か月ほどでしたが、姉弟のように、親友のように、仲良くなりました。私がバンクーバーを離れプリンスエドワード島へ向かうときに、彼がくれたのが Yiruma の曲を焼いた CD-ROM でした。CD-ROMとは! ちょっと時代を感じますね。

初めてプリンスエドワード島で過ごした夏の間、私はその CD-ROM を何度も繰り返し聞きました。その中に「River Flows in You」も入っていました。私にとってこの曲は、懐かしい特別な思い出の曲なんです。

「I Giorni」と「River Flows in You」を立て続けに浴びて、心揺さぶられ、さすがに感受性がいっぱいいっぱいになったと感じた私は、そこで立ち去ることにしました。名残惜しかったけど。




さて、私は夕食を食べることのできる場所を探していたのでした。21時も過ぎ、さすがにお腹も減り、そしてラストオーダーになってしまう前にどこかのレストランに駆け込まなくてはと焦りました。

そこで入ることにしたのが、私が泊まるホテルの1階に入っていたレストランでした。テラス席はお客さんでいっぱいで賑やかでしたが、奥を覗いてみるとバーカウンターがあり、店内は割と空いているようでした。ここであれば、ホテルのお部屋にもすぐに戻れるから都合がいいと思ったのです。

レストランの入り口で、私ひとりで食事をしたいと伝えると、バーカウンターに案内してくれました。案内してくれたウェイターさんも、そしてバーカウンターにいたバーテンダーと思われるお兄さんも、ホテルのおじさまスタッフと同様に始めはフランス語で、そして直ぐに英語に切り替えて接客してくれました。

ここでもとても楽しい時間を過ごすことになりました。

バーカウンターのお兄さんが、私が日本人と分かると大喜びで色々話しかけてくれたのです。バーカウンターに座ったお客さんと話すのはバーテンダーのお仕事のひとつなのでしょうが、私も嬉しかったです。

お水を持ってきたり、注文を聞いたり、食事をサーブしたり、「Is everything okay?」と様子を伺いに来たり、お水を足してくれたり、お会計したり、といった私のお世話的なことは全て、ウェイトレスのお姉さんがしてくれました。これまた感じの良い接客をするお姉さんでした。


夕食はハンバーガーとフレンチフライとサラダ


バーテンダーのお兄さんは飲み物を作ったり、グラスを拭いたり、誰かとしゃべったり、賑やかに働いていました。カウンターに座りながら目の前で見ていると、楽しい気分になる働きぶりでした。

そして、日本について、日本人について、自分が思っていることを話してくれました。アニメが好きなのだそうです。アニメの名前を聞いてみましたが、残念ながら私がその方面に疎いため、ちっとも分かりませんでした。でも話を聞いていると、彼が持つ日本についての印象は、アニメから受け取っているもののようでした。

バーテンダーお兄さんは、日本人は3つの特徴があると説明してくれました。一つめが、「Polite(礼儀正しい)」であるとのことでした。まあ、そうかな。お辞儀の真似もしてくれました。二つめは、「Humble(謙遜、謙虚)」であるでした。なるほど、そうなのか。

三つめは、、、と話し出したところで、お兄さんは止まってしまいました。口に出かかっていたのに、忘れちゃった、思い出せない、何だったっけと言って、止まってしまいました。英語が出てこない、とも言っていました。

私はちょうどハンバーガーと格闘していたところだったので、思い出したらでいいよと伝えました。そして、カナダっぽい(アメリカっぽい?)夕食を楽しみました。サラダ付いていて嬉しかったけど、ポテトは量が多くて残してしまいました。

バーテンダーお兄さんは、あとから私の隣に座ったおじいさんの相手もしていました。おじいさんはアイルランドからの観光客でした。フランス語が第一言語であるお兄さんと、アイルランド訛りのない英語で話し、お互いの英語を褒め合っているのが聞こえました。超片言英語の私にしてみれば、二人とも凄いなと思いました。

ハンバーガーとサラダを食べ終え、飲み物も飲み終え、どうにも食べきれそうにないポテトを目の前に、私はぼんやりとその場の空気を楽しんでいました。いい一日だったなと思いながら。

そこに、バーテンダーお兄さんが、思い出した!とやってきました。三つめのことです。私はすっかり忘れていたのですが、思い出してくれて嬉しくなりました。「Respectful(丁寧な、敬意を重んじる)」であるとのことでした。そうか、そうか。

私はとても有難い気持ちになりました。日本人が本当に、Polite で Humble で Respectful であるかは正直なところ分からないけれど、でもそうありたいなと思いました。

ポテトは山盛り残っていたけれど、もう手をつけるのも止めてしまった私の様子を察したのか、ウェイトレスのお姉さんがやってきて、下げてくれました。私はお会計をお願いしました。

カナダではチップ文化が残っています。以前は伝票を貰ったときに、合計の15%~20%(レストランの場合)を暗算する必要があって、なんて面倒なんだろうと思っていましたが、今では、カード支払い端末の操作で簡単にチップの額を乗せることができます。私はあまり選ぶことのない 20% のチップ額を気持ちよく選びました。

お会計を済ませ、バーテンダーお兄さんとウェイトレスのお姉さんに見送られて、レストランからホテルに戻りました。ここを選んで良かったなと思いました。




ホテルに戻るとまた、フロントデスクにおじさまスタッフがいました。私に気づいてにこやかに挨拶をしてくれ、「Have a good rest.(ゆっくり休んでね)」と声を掛けてくれました。

私はつい「Thank you. You too.(ありがとう、あなたも)」と口にしてしまいました。そして、はっ!と「You too.」はここでは余計だと気づきました。おじさまスタッフはお仕事中なのです。あなたもゆっくり休んでね、という意味の声掛けは変です。

はっ!となった私に、おじさまスタッフはすぐに気づいてくれ「いいんだ、いいんだ、仕事が終わったらゆっくり休むからね」と言ってくれました。二人とも大笑いしました。英語の言い間違いとしては大したことないことですが、でも優しい気遣いに気持ちがほぐれました。

ケベックシティの最初の夜は、実にいい気持ちで過ごすことができました。




今回はここまで。本当はホテルのお部屋を紹介しようと思っていたのですが、次の記事に持ち越します。プリンスエドワード島で過ごした時間も良かったのですが、ケベックシティで過ごした時間もまた別の良さがありました。最初の夜は特にそうでした。


冒頭の写真は、私が泊まったホテルのお部屋です。本当にいいお部屋でした。ちょっと奮発しましたのでね。また泊まりたいなと思わせるホテルでした。またいつか、行ける日が来るでしょうか。






ここまでお読みいただいたことに感謝です。毎回生みの苦しみを感じつつ投稿しています。サポートいただけたら嬉しいです!