格闘技のS&C:ニーズアナリシス プロボクシング編 1
今回はS&Cプログラム作成時に一番大事な要素の一つになるニーズアナリシス関してです。ニーズアナリシスとは文献や選手自身、そしてコーチ陣と話し合い今目の前にいる選手が活躍するにはどのようなニーズがあるのか?長所は?短所は?では、文献ではそれを数値化するための測定方法はあるのか?などなど様々な戦術的、スキル的、そして身体的なニーズを洗い出します。このブログポストではこの身体的なニーズに関して紹介して行きます。
内容はタイトル通りプロボクサーのニーズアナリシスを書いてみました。今回はボクシングの文献(オリンピックボクシング中心、残念ながらプロボクシングの文献は中々ない。。。)を何個か読んでリサーチではどう言われているのかをシェアできればいいなと思っています。
プロボクサーには何が必要なのか?
”プロボクサーにとって勝ち上がるために何が必要なのか?”は千差万別です。これは他の格闘技やスポーツでも当たり前ですね。スタイルも違いますし、勝ちパターンへの持って行き方も違います。12Rを守り抜いてポイントを稼ぎ勝つ選手もいれば、ドラクエの作戦みたいに最初からガンガン行く選手もいます。ただどのスタイルをリングの上で行なっていたとしても、共通することは二つあります:
1)相手にダメージを与えたり、効果的にリング移動するために必要な筋力・スピード・パワー、
2) それらを持続的に行うために必要な無酸素・有酸素エネジーシステム。
です。これから以下を書いて行きたいと思っています。
筋力・スピード・パワー
前回別のブログで”なぜ格闘家は筋トレをすると体が重い・遅い”と感じてしまうのか?を簡単に書いてみました。
https://note.com/coach_saki/n/nbb28a8cfcad3
それを少しここでは発展させてどんな筋力が必要なのか?を紹介できればいいなと思っています。筋力・スピードと言っても色々あるんですよね、実は。重いものをゆっくり持ち上あげる筋力、軽いものを素早く持ち上げる筋力(いわゆるスピード)、そして自体重を爆発的に動かす筋力(いわゆる、瞬発力・爆発力といったもの)などがあります。これらすべての要素はコンティニュアム、つまり繋がっています。これはVelocity Based Trainingという考え方なんですが、詳細はまた別のポストで。ここで覚えておいて欲しいのは筋力・スピード・パワーには種類があって、どれを鍛えるべきなのかは選手の個人によって変わってくるということです。
ボクサーに必要な筋力・スピード・パワーって何?
では、上記のような種類で打撃の格闘技であれボクサーはどこを鍛えていけばいいのでしょうか?先程も明記した通りそれは個人によってそれは違ってきます。しかし、ボクサーが最終的に目指すべき種類は一番左のStarting Strength、日本語ではいわゆる瞬発力・爆発力と言われる種類になります。これは比較的軽い重さ、1RMの20%以下ほどの重量を平均スピードおよそ秒速1.3mで動かすことで鍛えられる筋力・スピードです。どうやって測るのか?ですが、それはアプリケーションや専門の機材があるのでまた紹介します。
最大筋力をあげる必要があるのか?
ここまで書くと気づく人もいると思いますが、最大筋力の向上、つまり遅いスピードでの重いものを挙げることも重要だということです。どういうことか?最大筋力が向上すれば、それだけ重いものが挙げることができます。ということはStarting Strengthで扱える重量も理論上は上がります。このスピードでの筋力が上がれば、理論上では爆発力が上がります。爆発力が上がるということはパンチ力が上がることになります。これが筋力・スピード・パワーはコンティニュアム、つまり繋がっていると言った理由です。どの種類をいつやるのかはトレーニング計画を作成中・修正中に考えて行きます。それもまた別のブログポストに書いています。
ボクサーのパンチ力を間接的に測定するリフトの種類
ボクサー達がウェイトを通して達成したいゴール・克服したいニーズの一つは”パンチ力の向上”ではないでしょうか?やはり、プロボクサーである以上KOでカッコよく勝ちたいと思うのがボクサー心理かなと思います。
(もちろんパンチ力が上がっても当たらないと意味ないです。当てるための練習や戦術理解は当たり前ですがお忘れなく。当たらない大砲よりも当たる小銃がS&Cとしての考え方です。)
では、どのウェイトをして筋力が上がればパンチ力が上がるのでしょうか?
その答えに応えるためにはまずはパンチ力がどこからきているのかを分解する必要があります。1985年とかなり古い文献ではありますがソ連のエリートボクサー達と地域レベルのボクサーのパンチ力がどこから来るのかを調べた文献があります。そこではエリートになればなるほど下半身と体幹を使ってパンチを作り出しているという結果になりました。
Lenetsky S. el.,al 2019も人数は10人と少ないですが5-15年のボクシング経験者を集めてジャブとストレート、そして左フックではどの被験者も下半身で地面へ力を伝えていることが確認されています。
なので下半身の筋力を測定できるリフトの種類がいいでしょう。
バックスクアットの3RMを定期的に測定・記録をしたり、
カウンタームーブメントジャンプやスクアットジャンプの高さやピークスピード・パワーを記録して数値の変動を見ていくのがおすすめです。これらの数値は間接的ではありますが、リサーチではパンチ力と相関があるので是非試してみてください。
そして、上半身ですが。日本では広背筋を鍛えるといい、ということが言われています。が、リサーチではそれらを調べたものが見当たりません。自分が見つけていないだけかもしれませんが、オリンピックボクシングやプロボクサーの上半身の筋力を測定する際に使われているのはベンチプレスです。そして、このベンチプレスでの筋力とパンチ力も相関があるという結果も出ているので是非試してみてください。
エナジーシステム
ボクシングで体を動かすためにはエネジーが必要です。ここでは難しいことは置いておいてざっくりと書きます。(書きすぎて自分も頭がこんがらがりそうですしw)
体を動かすためにはまず二つのシステムが体にはあります。有酸素と無酸素です。で、パンチを出す、パンチを出し続ける、そして相手との間合いを一気に詰めたり話したりするときにメインで必要なのが無酸素システムです。
そして、相手とそれほどアクションがなくお見合いをしてる時やラウンド間のインターバルでメインとなるのが有酸素システムになります。
ここでメインでと書いているのは、エネジーシステムはスイッチをオン・オフという訳ではなくこれもコンティニュアムです。ラッシュしている時にメインとなるのが無酸素システムなだけであって、有酸素が使われていないというわけではありません。お見合い中や休憩中もそうです。
試合中のエナジーシステム
オリンピックボクシングのデータしかリサーチにはありませんが、どうやらボクシングの試合中にボクサーが使用しているエナジーの大部分は有酸素からきているようです。これは試合中に常に本気で殴り合っているわけではないということが大きいでしょう。ただしここで重要になってくるのは試合の結果を左右するパンチを打つ際にメインとなるエナジーシステムは無酸素システムだということです。つまり、両方必要になってくるわけですね。有酸素の能力が向上すれば試合中のリカバリーがある程度速くなりますし、無酸素の能力が向上すれば試合中に攻める回数が増える可能性があります。
エネジーシステムの測定方法
多くのエネジーシステムの測定はラボでやることが多いのでここではYo-Yo IR Level1テストを紹介します。このテストは様々なスポーツで無酸素持久力をテストするために使われています。必要となる機材はフィールド、記録容姿、音源、そしてスピーカーです。
上記はこのテストがどんなものなのかを紹介するビデオです。かなりきついのでする時には必ず注意をして、医師から運動の許可を得ている人だけやってください。(もちろんですがこの医師の許可は全てのブログポストおすすめに当てはまります。)
まとめ
色々と書きましたが、ボクシングには1) 筋力・スピード・パワー、そして2)エナジーシステムの向上が必要ということをまず覚えてもらえればと思っています。
以上!