貧乏学生がメルボルンでプール付きのコンドミニアムに住んでた件
息子はオーストラリアの大学のマレーシア校に通っている。
息子の通う大学のキャンパスと学生寮を見るため、夫婦でクアラルンプールに出かけたのが2年前。
その息子が、半年だけオーストラリアの本部キャンパスに通うことになった。
で、引っ越す必要が生じた。
しかし、そこには大きな問題があった。
物価の違いである。
クアラルンプールなら300円ほどでチャーハンが食べられる。
しかし、メルボルンではチャーハンが1500円はする。
一風堂の豚骨ラーメンにいたっては一杯2700円もするのだ。
家賃を考えただけで、背筋が寒くなり、すねが細る思いだ。
しかし、息子はクアラルンプール校の同級生たちと策を練った。
ルームシェアをしようというのだ。
新学期が始まるというのに、なかなか物件が決まらない。
取り敢えず、メルボルンに居を構えなくてはならないということで、仮住まいの一軒家に引っ越すことにしたそうだ。
しばらくして、息子から「家が決まったから新居に引っ越す」と連絡が入った。
私と妻は、意を決してメルボルンに旅立つことにした。
家族旅行でゴールドコーストに行ったことはあったが、メルボルンは未踏の地だった。
メルボルンは一時期、オーストラリアの首都だったこともあり、観光地というよりビジネスタウンのイメージが強かった。
それでも、「最も住みやすい街 No.1」に何年連続かで選ばれている街だ。私たちの期待はいやが上にも高まった。
実は、妻にはもうひとつ渡豪する目的があった。
妻にはオーストラリア人のペンフレンドがいたのだ。
中学生のころから数年間にわたり、文通を重ねていた同年代の女の子の住所がメルボルンだったというのだ。
高校生の頃、そのペンフレンドが突然日本にやってきたことがあって、妻の家を訪ねてくれたのだが、運悪く、妻はアメリカでホームステイをしている最中だった。
大人になって、互いに連絡を取らなくなってから長い年月が経っていた。
そうこうしているうちに、彼女はどこかへ引っ越しをしてしまい、連絡先がわからなくなっていた。
住所が分からなくては訪ねようもないはずだが、妻は名前だけを頼りに、彼女のFacebookアカウントを見事突き止めた。彼女は、まだメルボルンに住んでいるようだった。
これで、いよいよ感動の再会か!と思われたが、そのFacebookはしばらく前から更新が途絶えているようだった。メッセージを入れても何の音沙汰もなかった。
とはいえ、やれることは一つしかないので、メルボルンにいる間に、彼女から返信があれば会いに行ける心の準備だけはすることにした。
ともあれ、僕らはメルボルンの空港に降り立った。
そして、スカイバスという空港とダウンタウンを結ぶリムジンバスに乗り、メルボルンのサザンクロス駅に到着した。何とも南半球らしい駅名ではないか。
そして、市の中心部にあるホテルに向かうためにトラムの乗り場に移動した。
そこには、親切な案内係の人がいて、どっち向きのどのトラムにのり、どこで降りればいいかを丁寧に教えてくれた。
このトラムについては説明がいると思う。
僕たちは、このトラムが無料で乗り降りできる範囲の中でホテルを探した。
観光客が訪ねそうな市の中心部は無料なのだ。
そしてそこを超えてしまうと有料になり、500円程の料金がかかる。だが、2回以降は、その日のうちなら何度乗り降りしてもカードからは500円以上は引かれないというシステムなのだ。
市内の移動が無料というのは、観光客にとってもとてもありがたいシステムだが、居住する市民にとってもこの上なく便利な制度だろう。
例えて言えば、山手線の内側ならJRでも地下鉄でも全て無料。相互乗り入れの線で山手線の外側に出てしまうと500円、といった感じなのだ。
市の中心部の移動コストをゼロにしてしまおうというのは、ものすごく斬新な発想で、この無料トラムシステムの導入によって、中心部への車の流入を減らすことに成功しているらしい。
これも、メルボルンが住みやすい街である大きな理由の一つだと思う。
そして、息子にホテルまで来てもらい、メルボルンのアイコンにもなっているフリンダースストリート駅前で食事をした。
全くの偶然だったが、この日はイースターでフリンダースストリート駅が特別な色でライトアップされていた。
そして、いよいよ息子の部屋を訪ねることになった。
クアラルンプールの30階建てくらいの学生寮も、英語ではコンドミニアムと呼ばれており、メルボルンの住居が一戸建てからコンドミニアムに移ったと聴いた時もそれほど驚かなかった。
けれど、実際に来てみて驚いた。
こっちのはいささか築年数が経っているとはいえ本物のコンドミニアムだった。
ここに6人の仲間と共にルームシェアをしているという。
家賃は6で割れば、まあまあリーズナブルな支出で賄える。考えたものだ。
貧乏学生知恵を搾るの巻。
金がないから、知恵が湧く
金があれば、金で解決しようとするだろう
若いころの苦労は、買ってでもさせよ!だと思う
トラムの無料区間の中で、旧国会議事堂でもある州議会議事堂パーラメントに近く、プールの窓からはシャングリラホテルが見える。
4畳半で共用トイレ、風呂無しの下宿に住んでいた自分の学生時代を思い起こすと、隔世の感がある。
円安をものともせず、知恵と工夫でとんでもない暮らしを手に入れていた。
これも、海外留学をさせたメリットだと思う。
「かわいい子には旅をさせよ」の諺通りだ。
日本では決してできない体験をしている息子に会うことができて、何だかホッとした瞬間だった。