beautiful world #10
その手を包み込んだ俺の手に、温かいものがこぼれ落ちてくる。
水玉模様になれば、少しは笑ってくれるだろうか、そんなことを考えながら思うんだ。
「なーんか、すげー頑張ってるんだな、ひとりで」
そんなことないって首を振る小さく縮こまったこの子を放っておくことすらできなくなった。
「頑張るなら見守らせて、でも頑張れないって思うなら頼って」
涙声で、やっぱり優しいんですね、リョウさんってというから、誰にでも優しいわけじゃないけど、優しいことで誤解されるのならどうしていいかわかんなくなるんだわ、なんて心で思っている素直な言葉が次々に音となった。
「・・・私」
「ん?」
「私、割と恵まれた日常だったと思うんです。」
「うん」
「父が他界するまでは・・・」
そこから父親が残した多額の負債と、今病院にいる母親の入院費もろもろ一人でどうにかしている事、そして、そんな矢先に、自分には許嫁がいて、その人と結婚すれば全てチャラになるということを教えてくれた。
なんか、昭和だな・・・と失礼ながら思った。
でも今時あるか?そんな許嫁とかさ??
「で?どうしたいの?」
「私は、私でいたい」
そうだな、俺もそうだ。
「じゃあ、やっぱり俺頼って」
きっと意味が通じないだろう・・・この子はきっと俺の気持ちなんて優しさだけで片付けているだろうから。
「男として頼って欲しいけど、まぁそんな急には無理だろうから、まずはいちばん頼りになる異性でいいや、どう?」
彼女の口が動こうとしたそのとき、背後から聞こえた。
「いっけないんだ〜〜店の子に手出しちゃって〜」
またあいつだ・・・
「お店の評判にもかかわるんじゃないの〜?」
腹が立つのをギュッと我慢して、繋いだままの手を俺はしっかりつなぎとめていた。
「今日、この瞬間からこの子はうちの店の子なんかじゃないし」
「へぇ〜そうなの?翠ちゃん?」
え?と驚きを隠せない表情に、俺は、任せてて、と小さく伝えた。
「なんの問題もねぇよ、とっととうせろ」
「そういうわけにはいかないんだよねぇ、僕も」
繋いだ手のその先がカタカタと小刻みに震えているのがわかった。
ごめん、不安にさせてる、早くこの場をどうにかと考えているよりも早くに声が聞こえた。
「・・・リョウさん、帰りましょう・・・」
「うん」
不安で押しつぶされそうなのに、それ以上のストレスがかかることが負担なのだろう。大丈夫、ついて来て、と男の前を去った。
この子の不安を半分持ってあげたらどんなにいいか。
このこの悲しみや苦しみを少しでも引き受けたい。
どうしようもない気持ちになって
どうしようもないあったかい気持ちが俺を包む。
心配かもしれないけど、一つずつ目の前のこと片付けていけばいい。
握りかえしてくれるその指の力。
同じ力で握りかえした。