シグナル
隣で鼻歌歌うその横顔がたまらなく好きで、思わず手を伸ばしてしまった僕の指とぴくっと反応したキミの体。
運転中なんだから!なんてぷーっと膨らむ頬。
「運転中に鼻歌歌う方が危ないよ」
大丈夫、大丈夫なんて右の人差し指はハンドルの右上でリムショットのように動いていた。
「ういちゃん、それあの曲でしよ?」
うん、そうだよ、なんていって一緒に歌いだす。こんなにいい歌だったかな?なんて考えるよりも先に、一緒にいて、すぐ手の届くところにいて、なんだか楽しくなるこのやり取りが3割増してるんだと思った。
信号は赤。
ちょっとした渋滞。
夏休みのお出かけの家族や、時間差の通勤かもしれない。
アイドリングストップで止まる静かな車内で、その左手に僕の手を重ねた。
「ねぇ?」
「ん?」
そんな短いやり取りで。
なんの制約もない狭い車内で唇が重なる。
笑みがこぼれて
もう一回?なんていう僕に首を傾げてみせたキミには頭あがらない。
好きだよと好きだよが重なって。
僕らの夏がはじまる。
ううん。
また夏がこうやってはじまって、
僕らはとびきり楽しい夏を迎えるんだ。
信号は青。
僕の手をそのままその手に重ねて。
進もう。