Breath prologue
笑ったキミ。
優しく微笑むキミ。
少し困った顔のキミ。
キミの顔はいくつあるんだろうか。
そして
今、まるでなかったかのように、疲れをグッと内に隠してドアノブを握ろうとしている。
*****
僕の仕事はイレギュラーだ。
時間なんてあって無いようなもの。
それに追い討ちをかけるかのように、世の中が騒ついている今、僕は案外ステイホームを楽しんでいるんだと分かった。
当たり前に、朝起きて、トースト焼いて、ちょっとうまく焼けた日なんか鼻歌歌いながらバター塗って。
いや、バターじゃ無いな。マーガリンだ。
母親曰く、マーガリンは身体に悪いからやめなさい、って言われたっけ・・・
ちょっと甘めに作ったカフェオレと、プレートにのせたトースト。
ローテーブルに乗せて、朝のワイドショーを見て、世の中の流れを確認する。
窓を開けると、ゴミ出しをする人、仕方なく仕事へ行くサラリーマン、世の中は止まっていても回るもんだ。
ベランダからそんな誰かの日常が垣間見れる。
「ちょっと、ママ、今日資源ゴミの日じゃん?」
そんな声がどこからか聞こえた。
きっと、ゴミ出す日をすっかり忘れたんだろう。
僕だってある。しょっちゅうだ。
「あーもう、私出しておくから!」
そんな声が聞こえて、玄関の扉を押し開く音がまもなくフロアに響いた。
いい子だ、なんて他人の家族のことを勝手に解釈している僕の右手のカフェオレはうっすら膜ができていて、あーあーあーなんて言葉が漏れる。
そんな朝、わるくない。