Breath story 5
避けられているのだと気づくのにさほど時間は掛からなかった。
いいタイミングですれ違うのに、目線も合わせずまま軽く会釈をして消えていく。
まるで存在を消すかのように。
ポケットの中のくるみボタンのついたヘアゴムは大事にそこにあるけれど、だけれどこうも避けられていると渡しづらい。
そんなに初対面の印象が悪かったのか・・・いやもしくは僕の仕事柄のことなのか・・・ありとあらゆる可能性を考えているけれど決定的なものはない。
「何か・・・?」
ポストの前で腕を組んで固まっていた僕に声をかけたのはあのヒトの娘さんだった。
あ、えーっと・・・と言葉を濁すようにいろんな接続詞的な言葉を並べていた僕にその子は冷たい表情で僕に教えてくれた。
「母に近づかないでください」
と。
「あ、別にストーカーとかじゃないんだけど」
「それはもっと困ります。警察に・・・」
「ただ・・・これを」
ポケットの中のものを探りながら話を続けるとそのこはとても悲しそうに言葉をこぼした。
「母の悲しむ顔はもうみたくないし、苦しんでも欲しくない。私たちのことそっとしておいてください・・・ あなたがどんな人であるかも、きっと良い人であることもテレビ見てたらわかるけど、それでも、だめ・・・」
・・・え?どういうこと、待って、なんかうまく飲み込めないワードもある・・・
「だから、もうそっとして欲しい、です。」
頭を下げて、その子は去った。
どういう意味なのか分からなかった。
正直、僕のことを悪意を持っているようには感じなかったけれど、全ての人類受け付けない的なそんな印象だった。
僕はただ、あのヒトの笑顔が消えないで欲しい。
僕はただ、あのヒトがいつもの毎日を過ごして欲しい。
でも
僕はやっぱり、あのヒトの笑顔を目の前で見たい、そうなんだってわかった。