beautiful world #9
後で話がしたい
どういう意味なのかいく通りも考えた。
私が曖昧に昼間のバイトでの諸事情を混合しているから。
私の知らないところで、ひょっとしたらリョウさんに迷惑をかけているのかもしれない。
楽しいお酒を飲みたいお客様の前で、ボーッとしている私を察知したかのように、カウンターからリョウさんの視線が私の目を掴んだ。 注意される、と思って縮こまりそうな気持ちになりそうだった私の気持ちなんて他所に、リョウさんはとても困った顔をして、店では見せないような柔らかい笑みをこぼした。
私が働く理由は一つ。
経済的に自立したい。
私が私である世界に身を置きたい。
それだけ。
誰のものでもない。
誰にもこの先の私の未来には口を出して欲しくない。
たとえそれが両親が残してしまった、きっと本意ではない選択だったとしても。
賑やかだったフロアが静まり返る。
食器を片付ける音、水の流れる音、そして少しだけメイクを直して外に放たれる先輩たちの声。
片付けを一通りして、一番下っ端の私が最後の確認をする。
「お疲れ」
リョウさんが、店の鍵を手のひらでトスしながらやってきた。
「お疲れ様です」
「お店にいるときは、ボーッとしちゃダメ。分かった?」
「はい、申し訳ございませんでした。以後・・・」
「申し訳ございませんでした、は違うかな」
「・・・えっと・・・」
まぁいいや、なんていいながら、片付け終わったでしょ?外歩きながら少しだけ話をさせて、と荷物を早く持っておいでと、奥の部屋を指差した。
外は賑やかだったネオンも消え
輝かしい明日が待ち構えている。
「リョウ、さん?」
「あー別に小言言うために、話そうとかっていったわけじゃないから」
なんだ・・・じゃあ、何?
「翠ちゃん、向いてない」
「この仕事にですよね・・・分かってます、でも」
「見てて、ハラハラする」
「それも充分わかって・・・」
「時々、奥に引っ込めたくなる」
あぁ私は失格だ・・・
「これ以上俺の心ひっかき回さないで欲しいって思う」
・・・え?
「俺が守りたい」
意味がわからない。今のいままで私が職務に不適応だと言う話だったような・・・
「俺の帰りだけ待ってて欲しい」
横並びに歩いていたのに、私の足は重りがついたように動かなくなった。
「わかんないよなぁ、きっと。伝わってないんだと思ってたし。」
いいよ、少しずつ気づいて欲しいし、少しずつわかって欲しい。
そう言って私の手をギュッと握って、引いてくれた。
いつか小さい頃、お父さんが動物園の閉園のメロディと共に同じことをしたっけ・・・
懐かしい幸せな思い出が蘇る。あったかい温もりが私の涙腺を弱めてしまった。
繋いだ手に私の涙が落ちた。
****
困ったな、泣かしちゃった?なんて冗談めいて言いながらもその涙の理由が分からなくて本当に困った。
でも握った手を解かないでいてくれるのが嬉しくて、よしよし、とすると、ギュッと腹回りにしがみついてきた。
理由はどうであれ、俺はそれが嬉しくて。
情けないくらい好きだと思った。