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産qレース 第十話

 数日後、やすこはまさえと院内で久々に会った。すっかり勤務がすれ違っていたのだ。

 まさえは、「後で、聞いてほしいとこがある。」とやすこに小声で伝えた。
 「私も話したいことあるから、いつものところで夜ご飯食べようか。仕事終わったら連絡するね。」とやすこも小声で答えた。

 まさえと会うのも食事をするのも久々で、まさえの話したいことも気になって、やすこは楽しみで仕事を早めに終わらせ、職場をでた。

 お店で再会したまさえは、珍しく苛ついていた。注文など落ち着いたところで、堰を切ったようにまさえが話し始めた。

 「この前、同じ病院の内科医の織田に頼まれて、明智信子を飲み会に誘ったの。私と信子が織田の予約したお店に行ったら、リハビリ部の後輩の真田が来たんだよ。それも遅れて!真田は仕事が遅いんだから。織田は、誰が来るか教えないから、可怪しいと思ってたんだよね。
 それに、どうも真田が織田に信子のことを話していたらしいんだよ。真田と織田は、ゲーム仲間なんだって。明智さんがいるからか、織田がすごくテンション高くしゃべってたよ。私にとっては、なにもメリットのないし、興味のない医者と後輩との飲み会だよ。本当に時間の無駄だった〜。

 その上、織田は、割り勘をしてきたの。医者なのに、考えられる?

 後輩ばかりで自分は医者なのに、割り勘なんてあり得ない。そういう倹約家すぎるところがもういやなんだよね。」

 「真田を連れてくるのも、割り勘なのも考えられないわ。織田先生は、性格悪すぎない。」とやすこは大きく頷いた。そして、「明智さんと会うために、まさえが使われた感じだよね。その後、二人はどうしたの?」

 「織田先生と明智さんは、駅の方向だったから、お店で解散したよ。二人で一緒に帰っていったよ。あとは、知らない。どうでもいいやって思って。」

「それはいつのこと?」

「2週間くらい前だったかな。」

「ちょうどそのくらいに、明智さん休んでたよ。最近、明智さんが、ちょくちょく体調悪いとかいって、休んだり遅刻とか早退するんだよね。。
明智さん、前も体調不良で早退したのに、飲み会来てたことあったよね。
もしも、織田先生と明智さんって付き合ったりしてても、まさえはいいの?」

「明智さんって、なんかズレてんだよね。まあ、付き合ってたら、おめでとうございますって感じだよ。全然、気にしない。織田は、医者ってとこ以外にいいとこないから。それに、また明日も飲み会あるしね。」

「まさえは、本当に前向きだなぁー」

「ところで、やすこは誰かと連絡とってるの?」

「そうなの!徳川さんと付き合うことになったよ」

「えーやすこ、早く言ってよ!良かったね!徳川さんとやすこは合うと思ったんだよ。二人とも真面目な感じだし、幸せになってね。嬉しいよ。」

「まさえは、徳川さんは気にならないの?」

「全然、気にならない。だって、私は自分より背が高い人じゃないとだめだからね。」

 その後は、まさえの最近の恋愛や職場の話で盛り上がった。
 まさえは、あまり人を羨んだり憎んだりしない、女性には稀有な性格だと思う。きっとキューピットの生まれ変わりなのかもしれない。人の縁を繋げる人はなにかの特殊能力を持っているのではないかとさえ思う。

 そして、数週間後、まさえからの連絡と周囲の目撃情報から明智と織田という新たなカップルが誕生していたことが判明した。


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