ご覧頂き、誠にありがとうございました。 少子化が深刻となり、政府から異次元の少子化対策が検討されています。 以前、知人と子供を『子供をもう一人どうするか』という話題をしていた際、知人は「妊娠中のハラハラがしんどくて、もう働きながらはきつい」と話していました。私は、首がもげそうなほど、頷きました。 十月十日の間、お腹のブラックボックスの状態を気にしながら、今までの半人前くらいの仕事しかできずを「すみません。ごめんなさい」を繰り返しながら、こなしていくのは、本当に大変で
一ヶ月後の昼休み、退職前に荷物を引き取るため、織田に付き添われて、信子はやってきた。 斎藤は、お休みの日だった。たぶん、休みの日程を確認した上で、この日に来たのだろう。 信子の最後の出勤ということもあり、まさえなど他のスタッフも来ていた。 やすこと伊達、源氏で、信子のものと思しき荷物をまとめておいた。 信子は、すっかり痩せて、美しい顔も覇気がなくなっていた。 源氏が織田と信子を出迎えた。 「この度は、大変でしたね。これは、信子さんのかと思う荷物をまとめて
やすこは、その後風邪から気管支炎を併発し、薬も飲めなかったため、回復に二週間もかかった。徳川のドクターストップで、体力がしっかり回復するまで、更にもう一週間お休みをとった。 久々に出勤すると、真田が嬉しそうに話しかけてきた。 「やすこさん、戻ってきてよかったです。電子カルテシステムは無事に動いてます。お休みする前、かなり体調が悪そうだったので、心配しました。先週くらいから、織田さんも急に休みしてるんですよ。」 「そうなんだ。織田さんどうしたの。」 「休む前は、普通
後日、斎藤帰蝶は、清和部長と源氏科長によばれた。 やすこと信子に対する嫌がらせ行為について、言及されたようだが、信子に対するメール以外は、一切認めなかったと源氏より聞かされた。 その後は、ぱったりと不可解な出来事はなくなった。 信子も安定期にはいり、元気を取り戻し、仕事も落ち着いて取り組めるようになった。お腹も少しずつ目立つようになってきた。 一方、やすこは、年度末の電子カルテ係の仕事が大詰めを迎え、多忙を極めていた。 臨床終了後に、改定されるデータ入力
翌日、やすこと信子は、リハビリ部長の清和の元へいく。 やすこは、歯ブラシの件や連絡書類のデータが消去されていたり、破棄された件について。信子は、消毒用アルコールが混入された件や斉藤さんからのメールについて話した。 清和は、話を聞き終えると 「徳川さんも織田さんも、嫌な気持ちになったことはわかる。ただ、多くは証拠がない。ここは、病院だから、コストや個人情報保護の観点から、監視カメラなどは設置できない。それに、共有パソコンに大切なデータを残してはいけないよ。あまり人を疑わず
妊婦検診と重なり、久々にやすこは三連休をとった。 休みの初日、職場から電話がきた。 声の主は、真田だった。 「お休み中にすみません。担当患者さんの連絡書類が2名分ありません。どんな訓練内容か、口頭でいいので教えて下さい。」 「あれ、印刷したはずだけど。あっ、パソコンのデスクトップに徳川のファイルあるから、開いてみて、そこに連絡書類のデータがあるはず」 院内の電子カルテには、個人ファイルを管理する機能もあるが、使い勝手が悪く、しばしばパソコン上に保存していた。
女性比率が高い職場では、妊娠する際には、その順番が重要だ。 複数が同時期に妊娠した場合、最後に産休にはいる者はしんがりを務めることになる。つまり、先に産休にはいったものの、残した仕事や人数が減った代わりに増えた仕事を負わなければならない。 当然ながら、お祝いムードなど皆無に等しく、妊娠中の身重の体には、精神的にも身体的にも負担がかかってしまう。 12月、寒さが増す一方、イルミネーションが輝き、街はクリスマスカラー一色になってきている。 徳川との生活にも徳川の姓
まだ休暇中の徳川に見送られながら、新婚旅行から帰ってきてからの最初の出勤日。 新婚旅行の直前に婚姻届も提出したため、今日から晴れて徳川やすことして勤務する。 定番のマカデミアナッツとパイナップル型のクッキーを手土産にスタッフルームに入った。 早めに到着し、お菓子とお茶スペースに手土産を置き、パソコンにパスワードを入力し、10日間の担当患者さんのカルテを確認し始めた。 出勤してきた帰蝶が、やすこの元へやってきた。 「最近、あけ、いや織田さんおかしくないですか?
10月中旬の吉日。きれいな秋晴れの下、某都内ホテルの結婚式場で明智と織田の結婚式が行われた。 季節は秋だが、とても暑く、着慣れないドレスと履きなれないヒールの靴で過ごすのは、やすこにとって重労働だ。 結婚式には呼ばれないのではと思っていたが、信子から「ぜひ来てください」と招待状を渡された。つる千病院のスタッフが多く参加し、100人クラスの結婚式となった。意外にも、まさえは呼ばれなかったらしく、織田先生とデートしていたからかなと勘繰ってしまった。 やすこにとっては、来週
「やすこちゃん、ぼくとの結婚が嬉しくて、明智さんって子に色々話しちゃったのだね。その上、こんな仕打ちを受けるのに、ごちそうまでしちゃったのか。 これから、気を付けないといけないね。職場の人間関係は友達とは違って、利害関係が生じるから、自分でも気を付けているよ。 結婚式場の仮予約のお金を払ってまでキャンセルしているんだから、今後の結婚や妊娠を見越して、スケジュールを巻いてきているんだね。たぶん、結婚相手の織田先生だっけ、色々考えているんだと思う。こちらも、策を講じて動こう。
信子とやすこが一緒に帰った数日後の金曜日。表参道の小洒落たイタリアンのお店でやすこと信子は食事をすることにした。 信子の予定に合わせて、やすこが予約した。 信子は、3連休の初日で、やすこも明日から久々の土日休みだ。 「やすこさん、おめでとうございます。」 「明智さんは、正社員と結婚のダブルでおめでとうございます。仕事に慣れて、職場にもすっかり馴染んだね。」 「やすこさんのおかげです。源氏さんも戻ってきたし、最近は伊達ちゃんと勉強会に一緒に行ってるんですよ。あと
数ヶ月後の7月、勤務状態の確認と科長面談があった。 そこでやすこは、科長の源氏に結婚のことを話した。 「今年の11月に結婚することになりました。」 「おめでとうございます。お会い手は、同じ病院の方ですか。」 「いえいえ、普通のサラリーマンです。」 「また、新婚旅行など休暇の予定がきまったら、順次教えて下さい。」 やすこは、源氏への報告も終わり、ホッとした。 ところが、源氏は話を続けた。 「ところで、一昨年、リハビリテーション科に新しい電子カルテが導入さ
朝、スタッフルームへ行くと、科長の源氏が出勤していた。 「ご迷惑をおかけしました。今日から、またよろしくお願いします。少しですが、お菓子あるので食べてね。」とやすこに挨拶をした。 やすこは、ほっとしながら「また、よろしくお願いします。まだ、ご出産されて半年なので無理しないで下さいね」と応えた。 そして、信子が出勤し、源氏は初対面の挨拶を交わしていた。 源氏はリハビリテーション科の科長で、技師のトップになる。病棟も含めるとリハビリテーション部となり、部長は清和
やすこが徳川から告白を受けてから、数日後に徳川から東京スカイツリーへデートの誘いの連絡がきた。東京スカイツリーは、恋人達がいくものだと思い、なかなか行く機会がなかったので、やすこは楽しみで仕方なかった。 待ちあわせの時は、前回よりも更に心臓が口から出そうなくらい緊張したが、すでに待っていた徳川はやすこを見つけると、近づいてすぐに手を握ってエスコートしてくれた。すみだ水族館を見学後に、展望台へ向かった。 スカイツリーの展望台で都内を一望し、富士山まで見ることができた。
飲み会後、まさえと真田と分かれ、織田と信子は、駅に向っていた。 織田は、「信子ちゃん、もしよければ、もう一軒行かない?」と信子を誘い、信子は「是非、行きましょう。」と快諾した。 織田は、信子の容姿にすっかり惹かれていた。また、話していてもツッコミたくなるような間違えをする天然なところは、自分の母親によく似てると思った。 二軒目で、織田はなにも知らない信子に職場内の人間関係や自分が社会人から一念発起して、医者になった話などを話した。信子は、キラキラした瞳で頷きなが
数日後、やすこはまさえと院内で久々に会った。すっかり勤務がすれ違っていたのだ。 まさえは、「後で、聞いてほしいとこがある。」とやすこに小声で伝えた。 「私も話したいことあるから、いつものところで夜ご飯食べようか。仕事終わったら連絡するね。」とやすこも小声で答えた。 まさえと会うのも食事をするのも久々で、まさえの話したいことも気になって、やすこは楽しみで仕事を早めに終わらせ、職場をでた。 お店で再会したまさえは、珍しく苛ついていた。注文など落ち着いたところで、堰