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産qレース 第二十三話

 やすこは、その後風邪から気管支炎を併発し、薬も飲めなかったため、回復に二週間もかかった。徳川のドクターストップで、体力がしっかり回復するまで、更にもう一週間お休みをとった。

 久々に出勤すると、真田が嬉しそうに話しかけてきた。

「やすこさん、戻ってきてよかったです。電子カルテシステムは無事に動いてます。お休みする前、かなり体調が悪そうだったので、心配しました。先週くらいから、織田さんも急に休みしてるんですよ。」

「そうなんだ。織田さんどうしたの。」

「休む前は、普通に元気そうだったんですけど。」

「妊娠中は、何があるかわからないものね。」

「徳川さんも気をつけてくださいね。」

 やすこと真田が話している横で、帰蝶が横槍をいれてきた。
「織田さんは、いつも責任感がないんですよ。あんな人より、どうしてもっと男性を採用しないんですかね。徳川さんもお休み入る前に、きちんと片付けていってください。他の人が、その場所を使うかもしれないので。」

 真田は黙って、きまり悪そうに下を向いていた。

 やすこは、流石に帰蝶を睨みつけたが、さっさと帰蝶はどこかにいってしまった。
『こんなに、面と向かって人に嫌味を言う人が、あんな陰湿なことばっかりするかな』と、ふと、やすこは考えた。

 真田にお礼をいい、やすこは仕事を再開した。


 信子の休みは続き、産休開始予定日を過ぎて、そのまま産休に突入した。  
 やすこのお腹も目立つようになり始め、徐々に妊娠している実感が湧いてきた。やすこは、『信子は、長く休めて羨ましい』とさえ思っていた。

 その日、職場に到着すると、臨床中の伊達がやすこの元へ飛んできた。
「徳川さん、大変なんです。早く院内メール見てください。」

「わかった。」とすぐにパスワードを入力し、メールを開く。

送り主は、源氏からだ。

"スタッフ各位

 先日から、お休みをとっている織田信子さんに関する連絡です。

 かねてから、織田さんは妊娠中でしたが、今回残念な結果となりました。

 今後につきましては、産後休暇を約2か月間取得予定です。復帰については、織田さんの体調が戻り次第検討する予定です。

 御本人、ご家族の希望により、個別での連絡などは差し控えるようにお願い致します。

                          以上"


 やすこの目から涙がこぼれ落ちてきた。

『残念な結果って、、
 神様は、なぜこんな意地悪をするのだろう。
なにが、悪かったのか。もっと、自分にできることはなかったのか。

自分は、大丈夫なのか。
どうしよう、、怖い、怖い、怖い』

伊達は、やすこの顔を心配そうにみつめ、
「大丈夫ですか?」と声をかけてくれた。

「少し、外すね。」とやすこはスマホを持って、スタッフルームを出た。

 初夏の少し蒸し暑い院庭で、徳川に電話をした。

「どうしたの、やすこちゃん。体調わるいの?仕事中だから、ごめん、手短にお願いしていい?」

やすこは、信子についてのメールを伝えた。

「そんなことが。。

やすこちゃん、ひとまず落ち着いて、あくまでも、それはやすこちゃんのことではなく、織田さんの問題だから。やすこちゃんは、優しいから、自分のことのように捉えちゃうかもしれないけど、それは違う。自分をしっかり持って。

 あと、辛かったら、帰ってやすんでもいいと思う。一日、休んだって、世界は何も変わらない。辛かったら、時には逃げてもいいんだよ。無理しないで。」

 徳川の声をきいて、やすこは更に泣いてしまったが、徐々に落ち着きを取り戻した。

「声を聞いたら、安心した。たぶん、大丈夫。」

「泣いてる声を聞いたら、こっちの方が、仕事に手がつかなくなっちゃうよ」

「ごめんね。」

 通話を切った後、やすこはトイレの鏡で自分の酷い顔をみて、笑ってしまった。涙を拭き、スタッフルームへ戻った。

 そして、数日後に、信子の辞職届が出され、退職が決まった。

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