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産qレース 第十一話

 飲み会後、まさえと真田と分かれ、織田と信子は、駅に向っていた。

 織田は、「信子ちゃん、もしよければ、もう一軒行かない?」と信子を誘い、信子は「是非、行きましょう。」と快諾した。

 織田は、信子の容姿にすっかり惹かれていた。また、話していてもツッコミたくなるような間違えをする天然なところは、自分の母親によく似てると思った。

 二軒目で、織田はなにも知らない信子に職場内の人間関係や自分が社会人から一念発起して、医者になった話などを話した。信子は、キラキラした瞳で頷きながら話を聞いてくれた。
 信子も、以前の病院でパワハラ似合っていたことや職場で失敗した話などをこれまで悩みを話した。信子は、織田というよりは医者と二人で飲みに行き、話せたことが嬉しくて仕方なかった。病院に勤めていても、業務以外で医者と接点を持つことは殆どなかったからだ。医療の知識や病院での経験、自分の知らない職場内の人間関係を聞くだけでとても楽しかった。

 その後、織田は、遅くなったからと信子を家まで送り届けた。時計は、もう深夜0時を回るころだった。

 織田は、「もしよければ、明日はうちに来ない?」と誘った。
 信子は「うん、行きたい。」と即答し、その日は別れた。
 
 翌日、信子は飲み過ぎて、二日酔いで仕事を休んだ。
 『でも、織田先生とは会いたいので、どうにか体調を戻さなきゃ。』

 夕方になり、織田の指定する場所に行くと、それは職場の寮だった。かなり年季がはいっており、決してきれいとは言い難い。

『ここに住んでるの!?』

 しばらくすると、織田から連絡があり、急患がきたから病院出るのが遅くなるとの連絡だった。

 人目のないところで、信子は待つことにした。

 少しすると、見たことがある顔が出入りしていく。単身の寮は、看護師以外の医師やコメディカルが入居していおり、非常勤の信子は寮の存在自体を初めて知った。知り合いがいる可能性があると思い、人目を更に警戒するようにした。
 
 しばらくして、『おわったから、今からいく。』と連絡が来た後、織田がコンビニの袋を持ってやってきた。

「お待たせ。だいぶ待たせちゃったね。」

「寮に住んでたんですね。」

「呼び出しもあるし、寝るだけなら気にならないからね。」

「でも、見たことある人が何人か居たんですけど。」

「大丈夫。誰も見てないよ。」
 
 信子が織田の部屋に入ると、雑然とゴミやゲーム、漫画が散乱していて、男性の部屋のイメージ通りの部屋だった。

 織田が準備してくれたコンビニのお弁当やビールを飲みながら、仕事や職場の話を聞いていた。

 酔いが回ると、織田は、将来設計を話は始めた。母親と同居を考えていること、旅行などお金のかかることはせず、全てはお金を貯めて、今後の開業資金にしたいと考えていることを話した。

 織田は、幼い頃に父親が蒸発しており、母子家庭で育った。織田の母親は裕福な家庭で育ったが、親に勧められたお見合い結婚の直前で、父親と駆け落ち同然で家を出た。そのため、母親の実家からは勘当状態になり、開業医であった母親の兄で織田の伯父に、母親はしばしば経済的支援を受けていた。
伯父の医院は、見晴らしの良い小高い丘の高級住宅にあった。母親と共に、伯父に会いに行くたび、幼心に貧富の差を痛感させられ、母親が伯父から嫌味を言われ度に肩身が狭い思いをしていた。織田は、この頃から伯父のように医者になり、あらゆる面で伯父を超えたいという野望を持っていた。

 織田は「信子ちゃんにできれば一緒に手伝ってほしいと思ってる。」と伝えた。

 信子は、夢があることが素晴らしいと思ったし、金銭に無頓着なため、経済観念がしっかりしていることに関心していた。二度目の二日酔いになりそうな頭で懸命に考えながら、「私でよければ、手伝うよ」と伝えると、織田は全力で信子を抱きしめた。

「ずっと一緒にいよう。」と織田に言われ、信子は涙が出てきた。

 信子は、職場内で医者の彼氏という強い味方と後ろ盾を得た。

 それから、信子は実家と病院の行き来に加え、お忍びで織田の寮の部屋に通い始めた。


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