産qレース 第十四話
数ヶ月後の7月、勤務状態の確認と科長面談があった。
そこでやすこは、科長の源氏に結婚のことを話した。
「今年の11月に結婚することになりました。」
「おめでとうございます。お会い手は、同じ病院の方ですか。」
「いえいえ、普通のサラリーマンです。」
「また、新婚旅行など休暇の予定がきまったら、順次教えて下さい。」
やすこは、源氏への報告も終わり、ホッとした。
ところが、源氏は話を続けた。
「ところで、一昨年、リハビリテーション科に新しい電子カルテが導入されて、そのやり取りを北条さんがリーダーでやってくれてのは、知ってますよね。でも、北条さんが3年近く電子カルテのリーダーをしていたので、他の人に変わってもらいたいと話していて。。つきましては、部長と相談し、同期の今川さんにリーダーをやってもらおうと考えています。私生活でも、お忙しい中とは思いますが、お願いできますか?」
『まさえは、なんでこんなタイミングで辞退するの。これまでもトラブルが多発し、何度も対応に追われていた。その上、電子カルテを担当すると、2年に一度行われる診療報酬改定で、帰れなくなっていたっけ。確か、来年はその年だ』
やすこは、「今、どうしても私がリーダーをやらないといけないですか?」と確認した。
「是非、お願いしたいと思っています。以前の病院で電子カルテを使っている経験もありますし、リーダーといっても、私もバックアップしますし、もう一人、真田くんにも手伝ってもらいますから。北条さんも丁寧に引き継ぎしてくれると思うので、大丈夫ですよ。」
『大体、電子カルテのリーダーをやらせる前提だし、どうしても、私にやらせたいのか。』
「わかりました。できる範囲でやりたいと思います。」とやすこは力なく応えた。
結局、臨床以外の面倒くさい仕事を押し付けられ、その上まさえに嵌められた気分になり、やすこの幸せな気持ちは一気に冷めた。
仕事が終わり、スタッフルームを出る際、信子に呼び止められる。
「今川さん、もしよければ一緒にかえりませんか?」
「そうだね」とやすこは、頷いた。
着替えを済ませ、一緒に駅まで向かった。
「今川さん、今日の面談どうでしたか?私は、昨日だったんですが、源氏さんと初めての面談で緊張しちゃって。でも、そのうち公になると思うのですが、この前、病院の入職試験を受けて、私、正社員になれたんです。」
「そうなの!よかったね。働いている内容は同じなのに、非常勤はもったいないもんね。」
「本当に良かったです。あと、私、お付き合いしている人がいて、そろそろ結婚しようかと思ってて。」
「もしかして、織田先生?」
「えーなんでしってるんですか?」
「いやいや、この前、院内で楽しそうに話してたから、もしかしてと思って。よかったね。」
『やばいやばい、みんな噂しているとは言えないよね』
「やすこさんも、お付き合いしてる人がいるって、まさえさんが話したことがあったような。お医者さんでしたよね?」
『また、まさえ、余計なことを』
「そうなの、実は秋ぐらいに結婚しようと思ってて。また、科長ぐらいにしか伝えてないから、他の人には言わないでね。」
「そうなんですね。私達は12月なんです。近いですね。色々、ブライダルフェアと回りました?やすこさんと一緒のタイミングなんて、嬉しい!今度、ゆっくり話しませんか?」
「私も、色々聞きたいなぁ。あまり、周りに話してないから、スケジュールとかやらなきゃいけないこととか知りたいんだよね。予定合わせて、お食事一緒にしましょう。」
「ぜひぜひ、たのしみです。」
駅に近づき、やすこと信子は別れた。
やすこは、徳川との結婚について、家族以外と話をするのは初めてだったので、嬉しいような恥ずかしいような、照れくさい気持ちだった。
帰りながら、電子カルテの係にさせられたこと、科長と信子に結婚について話したこと、信子も同時期に結婚することを徳永に連絡した。
すると、徳川からすぐに連絡が返ってきた。
「お疲れ様です。できることがあらったら、手伝うから相談してね。おめでたいニュースがたくさんでいいね。」
やすこの幸せな気持ちは、一気に吹き返した。
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