産qレース 第十三話
朝、スタッフルームへ行くと、科長の源氏が出勤していた。
「ご迷惑をおかけしました。今日から、またよろしくお願いします。少しですが、お菓子あるので食べてね。」とやすこに挨拶をした。
やすこは、ほっとしながら「また、よろしくお願いします。まだ、ご出産されて半年なので無理しないで下さいね」と応えた。
そして、信子が出勤し、源氏は初対面の挨拶を交わしていた。
源氏はリハビリテーション科の科長で、技師のトップになる。病棟も含めるとリハビリテーション部となり、部長は清和という医師だ。
人事や勤務の評価については科長の裁量だが、最終決定や病院全体に関わることに関しては、部長案件となる。
源氏は、仕事は的確で冷静沈着だが、事なかれ主義な面もある。二人目を出産し、スタッフの不足を加味して半年で復帰した。育児時短勤務も取らないらしい。表向きは、仕事に対してストイックな上司だが、結局のところ夫の実家と同居し、実母も近くにいると患者さんと話していた。その上、夫はIT関係で在宅ワークが可能ときている。
産後や育児の大変さはあるが、マンパワーは十分ということだ。
『育休の延長は許されない。科長が短縮しているのだから、見習って下さい』と暗に言われているようなものだ。
以前、やすこは実習生と重なり、勉強会を他のスタッフにお願いしたいと言ったことがある。源氏は承諾したものの、その後勤務の評価が下げられていたり、連続して実習生を担当させられ、表面上は受け入れてもあとから、報復措置をしてくる意地の悪いタイプと心得て、対応を気をつけていた。
これで、雑務はなくなり、仕事も落ち着き、しばらくやすこに平穏な日々がもどってくる。そして、徳川との結婚と幸せな生活に向けて、準備ができる。
…そう思っていた。
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