「なぜシステム開発は必ずモメるのか」が、なぜいつまで経っても古くならないのか。。。
インフルエンサーのやまもといちろうさんが「実用書なのに涙が止まらない。」と褒めていただいたお陰で、想定外に売れてしまったこの本、おかげさまで、出版を契機に、私の人生が激変してしまいました。あっちこっちで研修やったり、講演したり、テレビや新聞・雑誌の取材も受けるようになった挙句、政府CIO補佐官なんて、ガラにもないお仕事をやるようになったのも、全部・全部この本が始まりでしょう。おかげさまで楽しい人生になりました。やまもとさんには、改めて感謝をする次第です。
どんな本なんでしたっけ。
で、これがどんな本かというと、私の定番である、「IT紛争を反面教師にして、あなたのITプロジェクトを少しでもマシにしましょう。」ということをITユーザーとITベンダーの両方に向けて書いています。
実際、ITを開発したり、導入したりするプロジェクトは、失敗率が高く、この本を書いた当時は、その約7割がコストか納期か品質に問題を抱えたまま終わっていると言われたものです。この数字は今でこそアジャイル開発が定着した効果もあり3割程度に減っていますが。それだって、例えば建築会社がビルを10本建てたら3本は赤字か納期遅れか欠陥ビルなんてことはないわけですから、相当に深刻です。しかもITの失敗は、そのコストが当初予定の2倍、3倍に上ったり、スケジュールが1年2年遅れることもザラです。そこそこの規模のベンダーでも億単位の赤字を抱えたり、そこそこのユーザーが同じように億単位の損害を抱えれば、それはもう経営に重大な影響を与えます。実際、私が裁判所で調停委員をやっていたときにも、社長が夜逃げしたとか、東京までの交通費がなくて裁判所に来れないなんてベンダーもいましたし、紛争中に倒産してしまったユーザー企業もあります。せっかく儲けよう、業務を改善しようと始めたITプロジェクトが大谷翔平よりも高い打率で、悲惨な目にあってしまうというのでは、これはあまりに問題が大きかろうと、そんなことを考えながら書いた本です。
全編会話だけの本???
「なんじゃこりゃ?ラノベ?寸劇の台本?」初めて本を開いた方は、そんな感想を持つかもしれませんね。実際、「こんな本を出した出版社の良識を疑う。」といったレビューもアマゾンに挙がっていた気もしますが、それはそれで狙い通りだなと二ヤついた思い出があります。本なんてものは賛否が割れた方が、それだけインパクトがあったということですし、10人のうち賛成1名、反対1名、残りは「特に印象なし」となんてなったら最悪です。
さて、そんな感じで、この本は全編が、ITプロジェクトに悩むベンダーのSEやプロマネ、ユーザー側のシステム担当が、ITに詳しい有栖川塔子という弁護士に相談にやってきてそこで交わされる会話のみで構成されています。主人公が弁護士というのがポイントで、前述したように、主としてIT紛争を反面教師として、ユーザーとベンダーのあるべき姿を説くという形になっています。無論、それだけではなくて私がコンサルとして勉強したCMMIやPMBOK、Cobitなんかの考え方、そして何よりも私自身がSE時代にやらかした数々の失敗を織り込んでいます。
さて、中身はどうかというと。
例えば冒頭部に、塔子の後輩である若いSEが、お客さんがコロコロと要件を変える上に納期はそのまんまでプロジェクトが破綻しそうだと相談を持ち掛けます。ユーザーが要件を変えてしまうなら、その責任はユーザーにあるべきと思いがちですが、塔子は、その責任はベンダーが問われると言います。「なんで?」と問うSEに塔子は、ある裁判の例を持ち出します。これは実際にあった裁判ですが、お客は素人で自分の申し出る要件変更がプロジェクトに与える影響は分からない、それをやめさせたり、やるならスケジュールやコストを見直せ、とリードするのはベンダーの責任であり、これを怠ったベンダーはプロジェクト管理義務違反として損害賠償が課せられる危険があるとそんなアドバイスを言います。「そんなこと、お客さんには直接言いにくい」というと、「その程度のことができないようじゃ、人から金取ってベンダーやる資格なんてない!」とメンタリティに関することをちょこちょこと挟み込んだりもしているわけです。
一方、ユーザー側に対しては、やはり裁判を例に、ユーザーは”お客様”ではない、プロジェクトメンバーだと、そんなことを言ったりもします。大体こんな感じの話がエピソード風に (49だったかな?) ほど並んでおり、システム開発の上流から下流、つまり要件定義からテスト段階まで、注意点やあるべき姿を説明し、一応、チェックリストやリスク観点なども付録の体(てい)で載せています。章の並びはウォーターフォールになってますが、一つ一つは独立しているので、開発方式自体はどれでもあまり関係なく、アジャイルでも役立つかと。
理想論?基本?
途中、冒頭に出てきた若いSE(二十代前半女子)が、突然、「先輩(塔子)の言うことは理想論だ。現場では通じない!」そんなことを言い出します。どちらかというとお茶らけた彼女が突然、そんなことを言い出すので、書いている私自身もちょっと驚いたんですが (いや、作家ってそんなもんです。) 、プロジェクト管理やらレビューやら、確かに教科書ではいろいろと書いてありますが、それを現場に持ち込むとうまくいかないことも多い。WBSやバグ収束曲線を見ての管理なんて、結局は自己満足の管理のための管理じゃないか、現場では役立たない、なんて声も聞かれます。これには塔子も多少、言葉につまるところところもあるのですが、、、さて、どんな回答をしたかは、実際の本でご覧ください。(立ち読みでも図書館でもいいです。)
それと、この本を読んで、基本的事項の羅列だ・・・との感想を述べられる方もいます。確かに基本ではあります。しかし、この基本事項を本当に実践し、うまくいかないところも含めて本当に自分のものにする、この本を元ネタに自分のやり方を改善し、構築していく。この本の本来の狙いはそこにあります。基本事項だな。。。と思ったら、自分達にフィットする最上のやり方をぜひ、考えてみてください。(了)
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