#36 生地胴=ジーンズ論 vol.11
◾️20 ブランドの確立
1870年、仕立て職人のヤコブ・デイビスが大柄の木こりから「ズボンのポケットがはがれてしまうのでなんとかならないか」との要望を受け、リベット(鋲)をポケットの両端に打ち付けて補強した。これが大当たりとなったものの模倣品も出回るようになったことから特許出願を試みるも、その費用の68ドルという大金を捻出できなかったため、リーバイと提携の上費用を折半し、特許出願を果たすのである。
1873年5月、特許が認められたのをきっかけにリーバイ・ストラウス社に衣料生産部門が立ち上がった。この部門の監督がヤコブ・デイビスであり、ブランド「リーバイス」が生まれた。リベットによる補強があったからジーンズはこそ誕生し、幅が広がるきっかけとなったのである。
筆者も一時期愛用していた「501」モデルがこの原型であるが、ジーンズと呼称されるようになったのは1920年代、世界に広まったのは1950年代といわれている。
◾️21 ファッションへの変化
ジーンズにリベット(鋲)が取り付けられていることと同時に後ろのポケットにはアーキュエットステッチという弓型の曲線がある。これもポケットの補強に一役買っており、またリーバイスのデザインの象徴にもなっている。ベルト部分のラベルはツーホースパッチといい、「二頭の馬に引っ張られても裂けない」という丈夫さを謳ったものである。1950年頃までのジーンズはまだまだ作業着であり、一般には普及していなかったものの、当時一世を風靡した映画の主人公が履いていたジーンズが話題となった。主人公を演じたマーロンブランドに影響を受けてジーンズを履いた若者にはエルヴィスプレスリーやビートルズがいた。
ジーンズを履いたスターといえばジェームズ・ディーンを思い浮かべる人も少なくないだろう。この頃になると、ジーンズはリーバイスだけでなく、LeeやEDWINも手掛けるブランドとして名を馳せるようになり、ますますジーンズは世界に広がっていった。
映画で活躍したスターがジーンズの普及に一役買ったのは間違いないが、実はジーンズのファッション化に最も大きな役割を果たしたのはジーンズを作業着として来ていたカウボーイ(畜産従事者)であり、戦後海外派遣されたアメリカのG.Iであったという。
ファッションとして愛されるツールの下地には労働という実用性があるという事実は、稽古用という実用性を第一とした生地胴に似た流れを感じることができる。
◾️今回のあとがき
私の場合、「普段の外出も何かの作業もジーンズがあれば大丈夫。ジーンズだけは手持ちを切らさない」…同じような方がきっといるはずです。
ジーンズがそうであるように元々は実用性重視すなわち稽古用だった生地胴は、今は剣道具を揃えようとするときの選択肢のひとつになりました。
樹脂かファイバーか、本漆塗の竹胴か…生地胴か。そして生地胴のなかにバリエーションが広がっています。
今では高級仕様の生地胴というものも存在し「これこそが至高の生地胴」というような触れ込みのもとに売られるものもあります。
でも、どんなに高価なものも廉価なものもジーンズとして括られているように、どんなものであっても生地胴は生地胴として受け入れられ、それが当たり前の時代になったということは、大きな変化だと考えています。