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#24 古き良き剣道具を復興させたい vol.2 正藍染探訪 

■武州正藍染めの世界


剣道愛好家にとってなくてはならないのが正藍染の世界です。

そのルーツを辿るべく、武州地方―埼玉県羽生市にある野川染織工業さんを訪ねたのが2021年の秋のことです。
そしてつい先日には、あるご縁に恵まれ、同じ羽生にある武州中島紺屋さんで藍染めの体験もできました。

今回はまず、最初にお世話になった野川染織工業さんでの話を書いてみます。(過去にFacebookにアップしたものを再編します)

■300⇒4

この日は、通常は一般に開放していない作業所を、社員であり稽古仲間でもある友人に案内してもらうことができました。
この辺りには昔は300を越える工場があったそうですが、現在この地域には4か所のみになってしまっているそうです。
決して安価ではない武州正藍染の剣道着や袴、そして生活用品。
しかしそれを作り上げるためには惜しみない「人」の尽力があります。

糸を寄り、複数の種類の太さの糸を使い分け、生き物である藍に栄養を与え攪拌し、30回以上も繰り返して染め上げていきます。
織機で生地として生成されるとはいえ、その前の仕込みにまたとてつもなく細かい作業があります。

風合いよく、強く、抗菌の作用もあり、吸水性もあるという正藍染の織刺の剣道着と袴の素晴らしさは何にも替えられないと私は思っています。
化学繊維と化学染料を使った物が多く出回って久しく、昔は当たり前のように着ていた日本製の正藍染の剣道着と袴は、今や高級品と捉えられるようになりつつあります。

しかしながら、先人の知恵が目には見えないところにまで詰まった日本製の物には敵わないですし、剣道をしている以上はそれを守っていくという意識を持っても良いのではないかと改めて感じた次第です。

■しばらく寝かせておくことが理想?

ところで私の自宅には、まだ着る機会がない武州一の剣道着が2着眠っています。剣道具に詳しい人がしばしば「正藍染の道着袴はしばらく寝かせておくのが良い。その方が藍が落ち着く」という話をすることがあります。

しばらく置いておけば染が定着する、ということのようです。

そのことを質問してみました。
「大事に仕舞い込むよりもどんどん使って欲しいです」
そんな話も聞くことができました。

これに限ったことではなく作った人の気持ちを考えれば、良い物だから仕舞い込んでおくよりも日々使いこなしていくことの方が理には適っているんだろうなとつくづく思わされました。

なお余談ですが、私は剣道具は使ってナンボだと思っています。
もちろん大切に扱いますが、消耗しないように注意を払う意識が過剰になり過ぎてしまうとまた、道具としての本意を見失うことにならないかと考えています。(異論はあると思います)

■レポート 正藍染めの生地ができるまで

こんなに身近に正藍染の世界を感じたことはこれまでにありませんでした。野川さんも「たくさんの人に正藍染の良さを知ってほしいです」
とのことでした。
拙い文面ですが、画像とともに残し、共有いたします。

※野川染織工業さんでは現在、一般向けの見学対応などは行われていません。ご理解のほどよろしくお願いいたします。

◾️野川染織工業

野川染織工業の工場です。近くに直売所もあります。
藍の葉を乾燥させ固めたもの
真っ白な状態の糸。 このようにまとめられたものを通称で「チーズ」という。
横糸や縦糸、番手の異なる生地向けの様々な太さの糸
糸は一度煮るそうです。油分や汚れを落とし、染めやすくするとのこと
そしてこの中に
いい色ですね。ブクブクと泡が立ち、藍って生きてるんだなあと実感します。
石灰が栄養になるそうです。指を入れてみたらシャリっとした硬さも
蓋を開けると染料が入っています。 奥に控える機械に糸をセットして
機械が染料の上を進むイメージです。糸を染料に沈めては上げることを繰り返していきます。
だいぶ私たちにもお馴染みの色の糸になってきましたね。
立ち並ぶ織機には昭和初期のものもあるとか
織機にはさまざまな仕掛けがあります。
浅葱色の薄い生地は衣類などに使われます。
平織り。これはかなり厚手の袴の生地になります。
貴重なものを見せていただけました。

■褪めた風合いと劣化の違い

綿の糸の状態から染める「先染め」から始まり、丁寧に織り上げられていく正藍染めの生地を使う剣道着や袴。そして剣道具。
それらが当たり前だったのが昔の話になりつつあります。

仮に綿製品であっても染めが化学染料のもののほうが多くなり、それも「正藍染め」と称されて当たり前のように販売されています。
真新しい、最初のころは見分けがつかないのですが、そういうものは使っていくと灰色や紫がかったような色に退色します。

藍が褪めることによる変化には、それとは違う風合いがあります。
また、藍染めは色が濃い程に良いと思われがちですが、藍が褪める―つまりは色落ちによる変化はそれぞれに名前がついていて、その変化もまた美しく、たのしむことができるものです。
(この色の変化と名前については別の機会に触れます)

先人が考え抜き、工夫した天然の素材で仕立てられたものは、使う程に馴染み、柔らかさが生まれ、何にも替え難い風合いとなります。
「道具」とは使い込むほどに風合いが出るものです。
この風合いは、「退色、劣化」とは全く異なります。

■避けて通れなくなってしまった「正藍染めの綿製」か「ジャージ」か

昇段審査などで極度に色が薄くなってしまっているようなものは敬遠されますが、それはいわゆる「正装」から遠ざかるからです。
しかしそれはあくまでも場の問題です。
普段はこの色の褪めをたのしむのも剣道の面白さだと私は考えます。

ところで正装といえば、昇段審査云々で話題にもなるジャージ道着袴などの化学繊維の良し悪しというものがあります。これについてはいろいろな考え方がありますので、極々私見、ということで少しだけ述べておきます。

ジャージなどの道着袴のメリットはなんといっても「軽い。洗ってすぐ乾く」ということでしょう。
ただし、汗を殆ど吸いません。汗を吸わないのでそれを通り越してダイレクトに剣道具に汗が染みこむことになります。

体温調整もうまくできないので、熱中症のリスクは高まります。
(余談ですが、私は夏場でも二重の剣道着を着ています。汗を吸ってくれるので)

また、剣道着、袴は己の身を守る役割も果たしています。ジャージなどのそれは身を守ってくれるでしょうか。

「昇段審査で使いたい」…合否云々で言えばあまり影響はないでしょう。ましてや最近は、遠めに見れば綿製のものと見分けがつかないようなものも出ています。

しかしながら、です。

個人の自由、自己責任なので、誰かが関与するものでもないのですが、例えば重要な会議、プレゼン、接客、冠婚葬祭。通常そこにジャージで出かけるものなのでしょうか??
私にはちょっと…と、これくらいにして、そろそろ話を戻します。

■正藍染めの美しさ

ジャパンブルーという言葉があるように、日本人は藍色、青系の色を好みます。そのルーツのひとつとして、昔は誰もが当たり前のように身に着けていた正藍染めの生地に行き着きます。
正藍染めの生地は、和物には用いられているものの徐々に少なくなり、世の中に出回ることが少なくなりました。

そんななか、私たち剣道愛好家は、正藍染めにみられる、日本人が好む「ブルー」を身近に感じることができる環境にいます。
しかし、剣道の世界ですら正藍染めを希少なものに変えていこうとしています。
たとえば最近になって剣道を始めた人は化学繊維や染料の剣道着袴のほうが当たり前のものとなっていて
「正藍染めの剣道着袴を私ごときが身に着けるなんておこがましい」
なんていう人も当然のように存在するようになりました。

さまざまな事情が重なり希少になってしまっている正藍染めの世界の魅力を、野川染織工業さんはなんとかして多くの人に知ってもらおうと手を尽くされています。
皆さんもぜひ、正藍染めの世界に歩みを進めてみませんか。
コストの面で難しいところも確かにありますが、その機能性を考えれば必ずしも高価とは言えないはずなのです。

他にもいろいろありますが、続きは次回以降に。
とりあえず今日はこの辺で。

◾️野川染織工業

◾️武州一

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