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#63 生地胴はいつまでも


◼️10代の頃から約30年使っています

「生地胴」という剣道具のオーナーズ倶楽部である「生地胴倶楽部®️」の管理人をつとめています。2015年に立ち上げ、9年が経ちました。
生地胴とはもともと、稽古で使い倒すことを視野に、コストがかからないように表面を漆で塗ることをせず、天然の素材そのままに作り上げられたものです。しかし、ファイバー、樹脂などの手軽な化学製品の胴が出回ったことをひとつの機会に、わざわざ生地胴を選ぶ必要性がなくなるなど、さまざまな状況の変化のなかで一度絶滅寸前まで追い込まれました。

それが今は、市民権を取り戻す以上の人気を得るようになりました。手前味噌ですが、生地胴倶楽部の影響は多少たりとも「ある」と思います。
生地胴の注目のされ方自体は変わっていますが、それでも「生地胴は元々は稽古用の道具である」という普遍性は変わらず、この先ますますその性質が良い方に作用してもらいたいと思っています。
つまり、もっと気軽に手を伸ばし、使われる道具であって欲しいと思うわけです。生地胴に「格」がついて何かしら一目置かれる存在になり、手が届かないようなものになるとなれば、それは少々残念なことに思えます。

■とりまく情報だけが変化しつつある

私自身が生地胴を愛用し続けて来た30年の間に、いろいろな人による「生地胴とはこういうもの」と発信を見聞きしてきました。
「生地胴は稽古用。何も塗っていない=化粧をしていないものなのだから、出稽古や試合で使うには相応しくない」
元々そういうものですし、理解できる考えといえます。

しかし、時が流れると「せめて拭き漆を塗ればOK」という発信、加工の仕方によってランクをつける人が出てきたり、いつのまにか「出稽古や試合で使うのが望ましい」という発信までされるようになりました。
私は最初から拭き漆がかかっていようがなかろうが、出稽古や試合で使ってもかまわないものと考えていますが、生地胴そのものはこの30年大きく変わっていないのに、そこに貼られるラベルのようなものが、発信者の都合の良いように変えられている場面に出会うことがたびたびあります。
生地胴は、もっとシンプルなものだったはずですが…もちろん、拭き漆の定着や色合いさまざまな生地胴が出回り始めたことによる変化はあるものの、それはたんなるデザインの変化に過ぎません。デザインが変わっても、生地胴は生地胴です。

生地胴がメジャーになり、いろんな情報と解釈が出回るようになってくると「何を信じたら良いですか?」という質問が私のところに寄せられるようになりました。

私は「剣道具には正解はない」と思っています。「Aは最高。Bはダメ」という人がいれば「Aは間違っている。Bこそが本物」という人もいます。どちらも大切に使えば自分のものになっていく道具であることには変わらず、結局はその人が何を信じるか?に行き着くと思っているからです。
しかしながら、10代の三段の頃から生地胴を使い続けている身としては、「後付けに過ぎないのではないだろうか」と思えるようなものに遭遇することもあります。
それは穿った見方をすれば、「売りたいから」「知識があることを見せつけたいから」と市場が無知であることを利用しているようにも見えますが、そうではないことを願うばかりです。

バリエーションが増えても生地胴は生地胴です。それ以上でもそれ以下でもなく…

■自分自身の変化を映し出す剣道具

生地胴は天然の素材剥き出しの道具なので、使っていればさまざまな変化が生じます。打たれたり藍染めの染料が色移りしたり、化学製品のものとは違い使われる環境によっては革が変形するかもしれません。これを味というか劣化と見做すかは人それぞれですが、その変化は、自分自身の継続による変化を映し出すものにもなり得ます。
随分大袈裟な言い方かもしれませんが、剣道具とはそういうものですし、特に生地胴はその象徴的な道具とも言えます。
最近では生地胴も値上がり傾向にあるので、化学製品の胴台のようには気軽に手にできなくなっているかもしれません。しかし、使い込むほどに自分のものとなり、人とは違う個性がますます強まっていく生地胴のコストパフォーマンスは素晴らしいものです。

■気軽に手を伸ばせる、シンプルな剣道具

「剣道具は使ってこそ」です。いまは安価な海外製、信頼の日本製(信頼できる海外製もあります)、さまざまありますが、どんなものであっても使い込んでこそ自分のものになっていきます。
どうか「生地胴の立ち位置」なんてあまり気にせずに、自分の剣道の上達のために、気軽に手を伸ばして欲しいなと思います。
過剰なブランディングは不要です。
とにかく、まずは多くの人に使ってみて欲しい。いち愛好家として自ら生地胴を30年近く使い続けるオーナーズクラブ管理者としてそう思います…皆さんもいかがですか?

◼️今回のあとがき

今回の投稿は、以前に書いたものをリライトしたものです。
前回の投稿から半年以上経っていますが、生地胴の値上がり(これは仕方ないと思います)と、生地胴の過剰なブランディングは止まることを知らない状況です。
生地胴にバリエーションが出てくるのはよいことだと考えているのですが、特別に品位や風格を謳おうとするのはどうかなあ、と思うことがよくあります。
生地胴ならではの風合いというものは確かに存在し、天然の素材が見て取れるつくりゆえの重厚感もまた愉しいものです。
しかし、生地胴に品位や風格を吹き込むのは、道具そのものというよりは使い手の力ではないかと思っているのです。
そんなことを思いつつ、あらためて世に出したいなと思い、再度同じような文面をそのままに投稿しました。

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